未解決事件 (未解決事件)
1987年、大韓航空機爆破事件では乗客・乗員115人が死亡した。北朝鮮の元工作員、金賢姫は日本人になりすまし、事件を起こした。さらに、金賢姫は拉致被害者の1人と交流があったことを会見で明かした。警察庁警備局の指揮のもと、外事警察は拉致問題が公になる前から北朝鮮の工作活動に目を光らせていたという。70年代後半、若い男女の失踪事案が頻発していた。外事第一課の理事館だった南隆氏は「北朝鮮の犯行と思われたが、目的は何なのか、犯人像も分からなかった」と回想する。85年、北朝鮮工作員の辛光洙がスパイ容疑で韓国によって逮捕された。取り調べのなかで、日本人を北朝鮮に連れ去ったと供述。戸籍を乗っ取って日本人に偽装し、工作活動を行うのが目的だったという。ターゲットは独身者で身寄りがなく、失踪しても捜索される心配がない人物だった。
外事警察の捜査に待ったをかけたのが検察で、「判例がない」、「外国当局の取り調べの結果を採用できない」などと消極的だったという。実は辛光洙は北朝鮮の施設内で横田めぐみさんらに朝鮮語をレクチャーするなど、拉致被害者と関係があった。90年代、警察は北朝鮮と取引があった貿易会社の役員らに注目。表向きは詐欺事件として捜査しつつ、押収資料から対日工作活動に結びつけることはできないか、準備を進めていた。だが、上層部は「与党幹部の訪朝前に外事は何をやっている」と極秘捜査に干渉した。
新聞記者だった阿部雅美氏は北朝鮮の工作活動を示唆する記事を執筆したが、虚報だと批判された。また、失踪者の家族に取材すると、家出や駆け落ち、すでに心中しているなどと疑われ、中傷されていた。だが、87年の大韓航空機爆破事件を契機に日本社会は拉致事件の実像を認識する。金賢姫は李恩恵という日本人女性から日本語を学んだことを明かしている。警察、埼玉県警の捜査の末、李恩恵は田口八重子さんと特定。外事警察は拉致被害者が工作員の教育係として、テロに関与させられていると輪郭を掴んだ。一方、日本政府は北朝鮮との国交正常化に向けて交渉を進めていた。その成功は周辺地域の平和と安定に寄与すると、アメリカも熱視線を送っていた。日本側は拉致問題を横に置いたままで交渉は進められないと提起するも、北朝鮮は拉致事件への関与を否定し、交渉は暗礁に乗り上げていった。
蓮池薫氏は北朝鮮について、「欺瞞工作によってまだ生きている拉致被害者たちを闇に葬り去ろうとしている」などと話す。警視総監も務めた米村敏朗氏は北朝鮮の工作活動を前に組織の常識、国益が優先され、国家として一枚岩になれなかったと回顧した。一国の力というのは軍事力ではなく、国民の団結だという。