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ダーウィンが語る「音楽は生きるために直接な役に立たない。それなのにヒトはなぜ歌うのか?」。
アムステルダム大学のヘイキャン・ホーニング教授は「音楽はヒトにとって単なる”ぜいたく品”なのか。なぜなら高齢者になっても認知症で言葉を失っても音楽の記憶は残り続けるのだから」などと語った。
元電車運転士のトーマス・ダンヌは「普通に会話するのが難しい。ヒトが言ったことを忘れてしまうから」などと語った。記憶テストを行いアルツハイマー型認知症に典型的な記憶障害と診断された。ポールとは認知症感謝の会で初めて会った。ポールとの関係はほぼ音楽がらみで大きな喜びをくれるという。
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- リバプール(イギリス)
認知症のポールは「若い頃、趣味でバンドをしていた。全部、私が局を作ってね。自然をテーマに頭に浮かぶものを曲にしている。思いついたら大急ぎでメモする。すぐに頭から消えてしまうので。きっかけはATMにお金をおろしに行ったとき」などと語った。臨床心理士は「ポールが病院にきたとき、すでに記憶力にかなりの障害があった。10年以上認知症を患っているようには見えない。ポールとトミーの中で不思議なことが起きている。トミーとポールは活動的に保っている可能性の一つは音楽。音楽にはなにか特別な力があるかもしれない」などと語った。
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- ザ・ビートルズ
「音楽記憶ネットワーク」とは音を聞く聴覚野快感物質を出す報酬系・記憶の領域をつなぐネットワーク。認知症でも音楽記憶が残り続ける理由として「記憶のこぶ」がある。思春期に聞いた音楽が、その人にとって特別な曲として強く記憶に焼き付く現象で、報酬系が最も活動するのが思春期だからと考えられる。トミーは「音楽は妻と出会った頃に引き戻してくれる」などと語った。
ヘイキャン・ホーニング教授は「なぜ脳は音楽とこれほど密着なのか。進化以上の理由があるはず。謎を解くために2つの方法を考えた」などと語った。1つ目は「Cross Specoes」。ヒトと他の動物の音楽能力を比較し「音楽の起源」を探る方法。
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- アムステルダム(オランダ)
ヒト以外で「ビート予測」できる動物が初めて見つかったのは2009年、スノーボールという名前のオウム。京都大学 ヒト行動進化研究センターのチンパンジーでビート予測できるか調査しヒトのビート予測は霊長類の中でも特別な能力のようだと分かった。最近では、27人の新生児を対象に実験論文を発表。赤ちゃんでビート予測の実験を行ったところヒトはビート予測の能力を持って生まれると確信できた。
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- ヒト行動進化研究センター京都大学
2つ目は「Cross Culture」。音楽の起源を探る別のアプローチとなる。民族音楽学のパイオニアのシムハ・アロムさんが特に注目したのはバカ族やバヤカ族。熱帯雨林に住む狩猟探集民で10~20万年前の人類に近いDNAをもつと考えられている。興味深いことに彼らはほぼ1日中、歌っているという。その場所に謎を解くカギがあるかもしれないと考えたホーン教授。京都大学・矢野腹教授がカメルーン共和国の国境付近へ向かった。
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- カメルーン共和国
カメルーン・ンビンベに到着しバカ族と再会。食べ物をもとめて移動する暮らしぶりは変わっていないようだ。矢野原さんは「1番僕の中でヒップホップを感じたのがバカの音楽。短いループがずっと続くが、徐々に音の抜き差しで遊ぶところがヒップホップにニていると感じた」などと語る。バカという名前の由来には諸説あるが一説にバは人・カは葉っぱ、つまり森の民という意味。男たちは朝、狩りに出かける。若い女たちが水を太鼓代わりにした低温のビートを奏で、狩りの歌であるイエリをみんなで歌う。イエリは先祖から伝わる大事な歌で男が仮にでたときに女が歌う。
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- ンビンベ(カメルーン)
バカ族の歌を録音する。メロディーもリズムもバラバラ。沖縄県立芸術大学・古謝教授が楽譜にし、大きく分けて3つのメロディーから成り立っている歌だと分かった。旋律Aは「レとド」。旋律Bは「ソとファ」。旋律Cは「ラソラソ」。同時に弾くと響きが美しく完全4度といわれる「この響きすごく気持ちいい」と特別に感じる響きであった。
もう一つの特徴「ポリリズム」。リズムだけに着目するとポリリズムの特徴がよく分かる。
シンコペーションのような複雑なリズムがいわゆる「グルーブ」感が生まれること。予測が複雑になると脳は喜び報酬系が活発化する。そして大量の報酬物質が体を動かす運動野まで働きかけ、そこで思わず踊りだしたくなる。バカ族の人たちは複雑な音を楽譜なしで即興でつくれる。
古謝さんは「彼らは初めて習得するときから全体の中の一人として参加し、違う歌を歌い続ける、ずらしたリズム。むしろ他の人がやっていないことを自分がやることで、より緻密に満たされるというあり方が社会・生き方につながるものがある」と分析した。サイキ・ルイ教授は「集団の絆というキーワードは音楽の起源を考える上で外せない。音楽のビートにはたくさんの人を同時に動かす力がある。ともに歌うのは助け合えるというサインといってもいい」などと分析した。ヘイキャン・ホーニング教授は「報酬系は食欲など生存上、不可欠なモノで活発化する。報酬系が音楽と関わっているなら音楽がヒトの生存に不可欠だということになる」などと分析した。オディールは「イエリ(狩りの歌)は強い。祖先が教えてくれた。イエリを歌ったら獲物がとれた」と語った。
ヘイキャン・ホーニングとサイキ・ルイが「ヒトはなぜ歌うのか」について意見を交わす。ホーニングは「集団の絆というのがおそらく謎の答えだと思う」と話し、ルイは「私たちは人とつながるために音楽を手にした」と語った。また、ホーニングは「この仮説の実証は難しい。音楽は化石にならないからね。脳科学の観点から音楽と脳の仕組みを考察し一方で異なる動物や文化での音楽の在り方も考察した。今私たちが提示できる音楽起源の謎の答えと言っていいだろう」と語った。ルイは自分の研究で音楽によって高齢者の脳機能が向上するという結果が出たと報告。注目すべきは報酬系の中でも特に内側前頭前野の働きが活性化されていたこと。社会生活を営むうえで欠かせない脳の領域「内側前頭前野」は年齢と共に衰えやすい場所で、認知症の発症につながる。音楽によって内側前頭前野を活性化できるということは認知症の治療法の開発に大いに役立つはずだとルイは期待した。
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エンディング映像。