- 出演者
- 尾形貴弘
オープニング映像。
今回のテーマは「ポアンカレ予想」。ポアンカレ予想はアンリ・ポアンカレが今から約120年前に世に送り出した世紀の難問。この難問を証明したグリゴリ・ペレリマンがその後なぜか姿を消してしまったというエピソードもある。ポアンカレ予想は数学の言葉で「単連結な3次元閉多様体は3次元球面と同相と言えるか?」と表す。これは「宇宙の形がざっくり丸いか丸くないか 確かめる方法はあるか?」という問題。ポアンカレは宇宙の外に出なくても宇宙がざっくり丸いか丸くないかを確かめることができるはずだと言ったという。
「地球はざっくり丸いか丸くないか」、500年前それを確かめる方法があると考え、実行に移した人物がフェルディナンド・マゼラン。マゼランはひたすら西へと進み続け、出発地点に戻ってくることができれば”地球が丸い”と証明したことになると考えた。スペインを出発し、西へと船を進めた。途中でマゼラン自身は命を落としてしまったが出発してから3年後にスペインに戻ることができた。これによって地球は丸いと証明した。しかし、ポアンカレはマゼランの方法では地球が丸いことの証明にはならないと言った。1本の長いロープの端をどこかに結びつけておき、もう片方の端を船に結びつけてマゼランと同じように世界を一周する。戻ってきたらロープの端と端を手に持ち、ロープを引っ張る。ポアンカレは世界を一周したロープをいつでも必ず回収できれば地球はざっくり丸いと証明できると言った。今回は「トポロジー」という分野の話。例えば、スプーンとお皿は違う形だがトポロジーの考え方では全く同じ形だという。ポアンカレはトポロジーという考え方を使い、宇宙の形に挑んだ。宇宙の形もロープ1本で確かめられると予想した。
ロープの端を地球に結びつけておいてもう片方の端をロケットにつけて打ち上げる。やがてロケットは宇宙を一周して地球に戻ってきたとする。ポアンカレはロープを引っ張り続け、いつでも回収できれば宇宙はざっくり丸いと言えるという予想を立てた。この予想を数学界に問いかけたのは1904年、ポアンカレは証明できないままこの世を去った。ポアンカレは予想を記した論文の最後に「この問題は我々をはるか遠くの世界へと連れて行くことになるだろう」という予言を残していた。
ポアンカレ予想には数々の数学者が底知れぬ魅力を感じるようになった。しかし、その多くが人生を翻弄されていったという。ウォルフガング・ハーケン博士もポアンカレ予想に精神的に振り回され、はまり込んでいったと話した。ロープを回収しようとしても結び目ができたり、絡まったりして回収できるかどうか判断できないことが数学者たちを悩ませた。ジョン・ストーリングス博士は「どうすればポアンカレ予想の証明に失敗するか」という論文を書いた。ポアンカレ予想は決して近づいてはいけない難問と呼ばれるようになった。ポアンカレは丸くない形がどんな形なのか詳しく考えていなかった。そこでウィリアム・サーストン博士は丸くない形について考えた。1982年、宇宙がどんな形だったとしても最大8種類の形の組み合わせでできているはずだというアイデアを発表した。これが正しければポアンカレ予想も正しいと証明されることを示した。8種類の形とは1つは丸い形で、それ以外は丸くない形。丸い形以外の7種類のどれかひとつでも宇宙の中に含まれている場合、ロープを回収することはできない。つまり、ロープが回収できるのは宇宙の形が丸いときだけとなる。サーストン博士のアイデアが正しいと示せればポアンカレ予想を証明したことになると明らかになった。
ある日、インターネットにサーストン博士のアイデアの正しさを示すことでポアンカレ予想の証明に辿り着いたという論文が掲載された。最初は注目されなかったが論文に間違いがなかったため、論文の著者を呼んで話を聞くことになった。会場に現れたのはグリゴリ・ペレリマン博士。証明方法にはトポロジー以外の数学や物理学の考え方が用いられていた。その後、ペレリマン博士の論文は4年をかけて検証され、2006年に証明の正しさが認められた。数学界最高の栄誉とされるフィールズ賞が与えられることになった。しかし、ペレリマン博士は受賞と懸賞金の受け取りを拒否した。明るく社交的だったペレリマン博士はポアンカレ予想に挑む中で何かが変わっていったという。証明を終えたあとは数学界から姿を消した。その後も大学や研究所には戻らず、論文をひとつも発表することなくひっそり暮らしているという。宇宙の形について、最新の研究結果ではざっくりドーナツ型ではないかと考えられている。
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