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三浦健一さん(47)は芸名・三浦マイルドとして活躍する芸人。ピン芸人の日本一を決める大会「R-1ぐらんぷり」で2013年に優勝した。現在は広島の実家で母親と二人暮らし。76歳の母親は2年前に認知症と診断され、1日のほとんどを布団の中で過ごす。超高齢化社会の日本で笑いと介護に向き合う芸人の姿を見つめた。
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- R-1ぐらんぷり2013広島県認知症
ピン芸人の三浦マイルドさんは瀬戸内海に浮かぶ広島県江田島市で母1人・子1人の母子家庭で育った。ダウンタウンに心を奪われ、故郷を飛び出して芸人の道へ。母は泣きながら反対したこともあった。母の異変に気付いたのは2年前。家はゴミで溢れ、母はやせ細っていた。厚労省によると、2040年には65歳以上の3人に1人は認知症か、それに近い症状が出ると予測されている。三浦は慣れない料理に悪戦苦闘している。母は好きなものをずっと食べ、最近のブームはうどん。牡蠣が好きで残さず食べる。母は一人息子が地元に戻って来て喜んでいるが、三浦は東京で売れることができるず、負けて戻ってきたという思いがある。
三浦さんが帰宅すると、母が食べかけのアイスが置いてあった。認知症の母は1日に何個もアイスクリームを食べるという。三浦は全部食べ切るか、残ったら冷凍庫に入れるよう言っているが、母は言うことを聞いてくれない。一緒に暮らすようになって認知症の症状を実感している。母は先ほどのアイスのように極端な偏食になった。アイスはあるだけ食べてしまうので毎日買いに行くのが日課になった。かかりつけ医に相談しても良い案は得られなかった。
三浦さんが東京でライブに出演した。思いを同じくして競い合った仲間たちがいる楽屋は貴重な居場所になっている。東京にいる間、母の介護はヘルパーに任せているが、家にカメラを置いて、いつでも母の様子を見ることができるようにしている。芸人仲間と久しぶりに再開して楽しいひとときを過ごした三浦は笑顔だった。
広島市にある特別養護老人ホーム「なごみの郷」は在宅での生活が難しい要介護3以上の高齢者が入居している。厚労省によると、高齢者を支えるために必要な介護職員は2040年度には272万人とされるが、57万人不足するとみられている。この施設では職員の2割が外国人。ベッドにいる高齢者の様子はカメラで確認するなどして人手不足に対処している。広島大学の角谷教授は人手不足が続けば、介護も経済も崩壊する。介護報酬を上げて介護士の給料を上げることが大事と指摘した。介護報酬は利用者に介護サービスを提供した際に事業者に支払われる報酬。利用者が1割を負担し、残りを税金と保険料で賄う。どうやってサービスを維持するのかは全ての世代に問いかけられた課題といえる。
三浦さんは大阪のライブに出演。呼ばれる限りは舞台にこだわり続けたいと考えている。ステージ後は仲間と打ち上げ。ダウンタウンに憧れて芸人になったが、流されたのではなく、自分の意思で現在の自虐ネタをやっている。介護しながら芸人をやる後輩たちのために道を作るのが使命と語った。
三浦マイルドさんが広島に戻ってから好きになったのがプロ野球カープの観戦。母に毎朝結果を聞かれ、「勝ったよ」と言うと喜ぶので応援するようになった。三浦は母と住む江田島の実家近くに仕事部屋を借り、広島の人が笑ってくれるネタを考えている。攻撃的なネタできつくなり過ぎないラインを試行錯誤していた。三浦は認知症の母を2カ月ぶりに外へ連れ出した。広島の冬の味覚「カキ」を楽しむカキ祭りで、三浦はステージに出演した。イベント中も母の介護に気を抜けず、本番前にヘトヘトだった。母は舞台横で拍手しながら息子のステージを見守った。地元のファンに温かく迎えられた三浦は「広島でもやれることを見せたい」と語った。
三浦マイルドさんは地元・広島で行われるイベントの仕事が増えた。母のおかげで生まれたカープネタに手応えを感じている。スーパーへ行くと母が食べたがっていたメロンが売っていたが、帰宅すると今は食べたくないと語った。その後も母が食べたいと言ったうどんや餃子を作ったが食べてくれなかった。三浦は「今までむちゃくちゃやってきたから償いという意味もある。少しでも母親に機嫌よく、一日一日を送ってほしい」などと語った。