- 出演者
- -
大アマゾンで伝説や風聞にすぎなかった全裸の人間が突如として姿を現した。イゾラドと呼ばれる先住民の男たちは文明社会と接触したこともなく、カメラスタッフに気がつくと弓を構え、威嚇した。
- キーワード
- イゾラド
イゾラドが出現したという源流域は河口から5000kmの彼方にあり、詳説すればペルーのラス・ペドラス川上流域をさらに3日遡った場所だという。2014年11月、取材班はペルー政府との交渉を重ね、調査団に同行した。20年程前まで源流域には集落が1つもなく、多くの動物が生息していた。その源流域でイゾラドの目撃情報が相次ぎ、過去100年を遡っても類例がないほどだった。
調査団が向かったのはイゾラドの目撃情報が7回も報告されているモンテ・サルバード。アマゾンでも最も上流にある集落の1つで、20年ほど前に開拓 された集落には10家族100人の先住民が暮らしている。ペルー政府はイゾラドが目撃されてからモンテ・サルバード監視所を設置していた。監視所にはイゾラドのものとされる弓矢が保管され、矢にはヘビの血が塗りこまれ、刺されば絶命してしまうという。集落にはイゾラドに襲われるも奇跡的に助かった青年がいて、命と引換えに胃のほとんどを腎臓の一部を失い、今でも悪夢に苛まれるという。
2014年6月、村民が撮影した映像では川の向こうからイゾラドが集落へと向かってきた。数は10人と目視でき、弓矢や槍を携帯していた。集落はパニックと化し、若い女性と子供たちは鍵がかかる監視所へと逃げこんだ。集落のリーダー敵ではない証として家々からバナナを掻き集め、進呈することにした。腰巻だけを身にまとったイゾラドは武器を置き、集落へと徐々に接近してきた。指笛で興味を引くと、イゾラドも指笛を吹き、動物のマネをするとイゾラドもマネをし始めた。
カヌーに乗せたバナナは川の半ばで止まったイゾラドのもとに届けられ、イゾラドたちは我先にとバナナを掴んだ。空になったカヌーは集落へと返され、返礼の品なのかイゾラドが使うナイフが置かれていた。この邂逅の後、イゾラドは家族を引き連れて集落へとやってきた。ペルーでは姿を見せるイゾラドのことをマシュコピーロと呼び、凶暴で野蛮な人間を意味する。また、集落の人々が話す先住民の言語はマシュコピーロにも通じることが判明し、意思疎通も図ることもできた。
2014年11月、雨季によって大雨が降りしきり、イゾラドの出現回数も減るという。晴れた日、政府の調査団は付近の森を調べることになり、集落の長老は猟銃を携帯し道案内を買って出てくれた。調査対象の区域は森閑とし、道中でイゾラドだけが使うと思われる道しるべを発見した。道しるべに従って恐る恐る進むと、椰子の葉を地面に突き刺しただけの質素な家が数軒あった。付近には陸ガメといった動物の骨、バナナの皮が残され、中には変形した鉄鍋、皿も確認できた。
1万年以上前からマシュコピーロは深い森の中で動物を追って生活してきたが、80~90年にかけて伐採業者が森に流れ込み、鉄鍋と皿はその時に奪略したか、盗んだものと推察される。そして両者の間で何らかの騒動が起こり、マシュコピーロは森へと逃げこんだ。だが森を横断する幹線道路が開通し、マシュコピーロは元々いた森へと引き返した。その結果、94年に建設されたモンテ・サルバードの村民はマシュコピーロを目撃したと思われる。
調査が終了して政府の調査団が町へと戻ることになった。集落の人々は伝統の踊りで見送り、当番組の取材班も集落を辞去した。だがその3週間後の2014年12月、集落は100人を超えるマシュコピーロに襲撃され、人々は船で脱出したが家畜は屠られた。政府の調査団は森へと入ると、ここから先へと足を踏み入れるなと言わんばかりにカエルの死骸が吊るされていた。
2015年8月、モンテ・サルバードから150km離れた別の場所で青年の心臓が弓矢で射抜かれ、絶命した。現場から弓矢が回収され、モンテ・サルバードのものとは形状が異なり、ペルー警察としても見たことのないものだという。また、弓矢を射るには相当な膂力が必要だった。
シベチアリ集落も比較的新しい村で、マチゲンガ族は文明社会と100年以上前に接触していた。自給自足を辞めて久しく、エコツーリズムのガイド、集落が運営する宿泊施設から収入を得ている。だが青年が殺害されてからそうした収入を失い、集落の人々はマシュコピーロへの憤怒を露わにした。
ペルー政府はマシュコピーロと接触し、政府の管理下に置くことを決断。接触のための前線基地が高台に敷設され、川辺りに姿を見せた時に接触を試みて友好関係を構築する。そして彼らの情報を収集し、最終的に文明社会の一員にするという筋書きだった。交渉役には先住民の男性で、モンテ・サルバードの出身にしてマシュコピーロとの接触経験もあるロメウ・ポンシアーノ氏が抜擢された。当番組の取材班も接触の一部始終を記録するため、マシュコピーロが姿を見せるのを待った。
イゾラドとの接触は危険と隣合わせで、彼らは病原菌に対する免疫がないことから、不用意な接触によって命を落とすこともあった。この500年余でイゾラドが暮らす森を侵食し、病原菌を撒き散らし、開発によって土地を奪ってきた。現在、イゾラドが生きる村は5ヶ所で、人口は多く見積もっても500人と推定される。2015年9月、ペルー政府の接触前線基地ではマシュコピーロの姿を確認した。交渉役のロメウ氏は接触を試み、贈り物としてイモを進呈し握手などの作法を伝えた。別れ際、家族はバナナを要求し、接触は終了した。
これまでの接触によって家族の情報は少しずつ集まりつつあり、キツツキを意味するクッカという名の父親は集団のリーダーと目された。この男が青年を殺害した張本人と疑われる。妻はサルの名前のようなキーナといい、長男のカナイは好奇心旺盛。長女のカプシは着古したTシャツを着用していた。ロメウ氏にバナナを要求したこの一家は対岸で待ち続け、取材スタッフのカメラマンは予防接種を済ませてロメウ氏に同行した。
ロメウ氏ら一行が家族のもとに接近し、船から降りたロメウ氏は家族と抱擁を交わした。カメラマンは友達を意味するノモレを繰り返すも、家族は突如として警戒心を強めた。バナナを川岸へと持って行き、何者か?とカメラマンに急接近。すると女の子はジャガーに噛まれた痛々しい足を見せ、母のキーナは挨拶にやってきた。帰り際、家族はロメウ氏に明日も来てと要求し、取材班らはボートで撤収した。
翌日、家族は対岸の河原で待っていて、取材班はロメウ氏に3つの質問をして欲しいと事前に要望していた。「文明側の人間をどう思うか?」、「何故、人を殺めたのか?」、「幸せなのか?」で、家族は「あなたたちは怖い。あなたたちが先に殺した。幸せは分からない」と答えたという。政府はその後も家族との接触を継続するも、それから3ヶ月後、家族は森の奥へと消えていった。それ以降、一度も姿を見せてはいない。
イゾラドは数年で地上から姿を消すと専門家は予測していて、文明と未接触の人間を人々はイゾラドと呼び、凶暴で野蛮なマシュコピーロと名付けた。だが、彼らが自らをなんと呼ぶのか、文明人の我々は杳として分からない。文明化された社会が森を飲み込んだ時、イゾラドはどうなるのか。未知なるものを失いながら、大アマゾンは1つの色に染められていく。
クローズアップ現代の番組宣伝。
NHKスペシャルの番組宣伝。
歴史探偵の番組宣伝。