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ダイオウイカの調査から4年、NHK取材班と科学者たちが再びタッグを組み、4K超高感度カメラを駆使してさらなる航海へと旅だった。次なるターゲットは暗黒の海で怪しく光を放つ、謎の発光生物たち。そしてそれを狙う摩訶不思議な生き物たち。
アメリカ・モントレー湾は太平洋から流れ込む海流が豊かな栄養分をもたらし、ザトウクジラやカリフォルニアアシカなど海の大物たちが集まる。この海の下にはモントレー海底大峡谷が広がり、深い所は3600mに達する。これまでに数百種の新種が発見されている深海生物の宝庫で、今回調査するのは水深200m~1000mで薄光層(トワイライト・ゾーン)と呼ばれている。当番組と調査を行うブルース・ロビソン博士は数々の新発見を成し遂げ、世界を驚かせてきた。
ロビソン博士は船から無人探査機を遠隔操作し、探査機は徐々に深海へと潜行していった。水深200mに達すると強力なライトをつけ、長さ10m以上におよぶクダクラゲを発見。なかにはシロナガスクジラよりも長いものがいるという。先頭の数匹は水を吐き出して泳ぎ、その他は釣り糸のような触手を動かして獲物を捕まえるという。さらにカメラは50匹のサルパ、SF映画の宇宙船のような輝きを放つアミガサクラゲ、ユウレイイカなどを捉えた。アミガサクラゲの輝きは発光ではなく、細かい毛がライトを反射しているだけだという。博士曰く、薄光層で生息する生き物は僅かな光で獲物を見つけ、被食者はあらゆる方向から襲撃を受けてしまう。
無人探査機は水深600mに達するとデメニギスを発見。頭部は透き通り、その中に緑眼を宿していた。そして目は上を向いているのに口は正面と奇異な形状となっている。
ドラゴンフィッシュは眼の下の赤い部分が発光器とされ、調査のためロビソン博士らは無人探査機での捕獲を試みた。無事に成功し船上で検めたところ、大きさは約10cmだった。
超高感度深海撮影システムを駆使すれば発光生物たちの微弱な光を鮮明に映し出すことが可能だとして、ロビソン博士は深海と同じ温度に管理された暗室で撮影を行った。発光器は眼の下に2つ並び、同時に光を発した。そして体全体も輝き、博士はこれが撮影されたのは世界初でしょうとコメント。
ホタルはホタルルシフェリンと呼ばれる発光物質を作り、酵素と反応させて光る。一方で深海の発光生物は観察自体が難しく、研究は進んでこなかった。ロビソン博士は発光生物がどのように光を使って、行動するのかを観察したいと語った。
番組取材班とロビソン博士が乗艦したのは深海調査船 アルシア号で、過去にダイオウイカの撮影を成し遂げた。博士は超高感度撮影システムを搭載した潜水艇ナディア号に搭乗し、もう一隻の潜水艇であるディープローバー号とともに潜行した。静寂な世界が広がるなか、光に敏感なアウルフィッシュを発見。弱いライトへ切り替え、超高感度カメラで姿形を浮かび上がらせた。大きな眼を上に向け、獲物が来るのをじっと待っていた。一行はアミガサクラゲの姿を捉え、発光の際には体の内部に不思議な模様が浮かび上がり、樹状のように広がっていった。
クロカムリクラゲは体の周囲に並んだ触手で獲物を捕らえるハンターで、警戒心を抱かせないようにクラゲが感じない赤色光に切り替えた。すると青く光る粒子が放出され、星のように瞬きながら水中を漂っていった。敵の注意を誤導し、逃げるためと考えられるといい、発光生物の生態の一端を垣間見たようだった。続いて発見したオヨギゴカイはたくさんの足で歩くように水中を進み、驚くと黄色い光を出して泳ぎ去った。薄光層には隠れる場所がなく、身を守るために光を使っていると考えられるという。
調査2日目、発光生物研究の第一人者であるエディス・ウィダー博士がロビソン博士と合流した。ウィダー博士は4年前に当番組で試みたダイオウイカの撮影に参加し、成功の立役者となった。自ら開発した装置の中にはネットがあり、ネットに触れて発光する場面をカメラに収めてその生態を詳しく分析したいと考えていた。ウィダー博士とロビソン博士は二手に分かれ、深海へと潜っていった。海底にはギンダラ、ウミエラなど多くの生物が集まり、潜水艇のロボットアームでウミエラに触れると見事に発光した。
ウィダー博士はウミエラのように走るような発光パターンに着眼し、潜水艇はネットをスタンバイ。ライトを消し、高感度カメラの感度を上げた。ムラサキカムリクラゲは青く回転する光を放ち、博士はこれら発光生物の発光パターンに特別な意味があるのではと考えていた。
クラゲは襲われた時に光を発し、100m先まで届く。緊急事態を周囲に伝え、より大きな動物に敵を捕食して貰うというのがウィダー博士の仮説。そこでクラゲそっくりの光を放つ機械を用いて調査を行ったところ、3mもあるオンデンザメが集まってきた。
ロビソン博士の潜水艇はバイパーフィッシュを発見した。腹部の下に発光器がズラリと並んでいて、ムネエソ、オニハダカなど腹部の下だけを発光する深海生物が数多くいるという。
ホタルイカも腹部の下だけを光らせる深海生物。薄光層には僅かな光が届くため、下から見ると魚影が浮かび上がる。この魚影を捕食者たちは下から見上げ、狙っている。だが腹部を光らせると魚影はボヤけ、天敵の眼を欺くことができる。
デメニギスは透明な頭部の中に上を向いた緑眼があり、長年の調査から背景と発光器の光の微妙な違いを見分けて獲物の存在を見破ることがわかってきた。腹部を発光させて敵を欺こうとしてもデメニギスは獲物の姿を浮かび上がらせ、下から接近し正面に獲物が来る時に眼を90度回転させて確実に捕食する。ロビソン博士は深海で光を使って闇に隠れたり、それを見破る眼を進化させたりとまるで軍拡競争のようだと語った。
これまでの発光生物とは一線を画し、本当に微弱な光しか放たない動物プランクトンのカイアシ類を発見した。小魚から大型の魚に至るまで海の生き物に欠かせない食べ物で、その中に敵に襲われると光るものがいた。深海生物の多くはセレンテラジンという共通の発光物質を持ち、体内で酵素と反応させて光を放つ。だが発光物質を持っているにも関わらず、自らで作り出すことができない。中部大学の大場裕一教授はカイアシの仲間であるメトリディア・パシフィカに着眼し、セレンテラジンを合成できることを発見した。食物連鎖によってセレンテラジンが他の深海生物に受け渡され、生態系全体に拡散していると考えていた。セレンテラジンを取り込んだ生物たちも体の仕組みを進化させ、独自の酵素を作り出して種々様々な光の技を生み出した。
日中は深い海に隠れて生活するカイアシ類は夕方、植物プランクトンを食べるために浅い海へと上昇する。これは日周鉛直移動と呼ばれ、殊に大潮の時には移動が活発化する。カイアシ類を追って発光生物たちも上昇すると考え、ロビソン博士らはそのエリアは水深200mと目をつけた。潜行するとシビレエイ、シーバタフライなどを確認した。消灯したところ、無数の光が出現した。カイアシ類を追尾するように発光生物が参集し、博士らは壮大な光の協演に賛嘆した。ロビソン博士は発光の世界が分からずして、深海、海全体を理解することはできず、光の謎を追う冒険ははじまったばかりだとコメント。
地球の海の95パーセントを占める深海の謎に迫るディープ・オーシャン。次に目指すは世界一冷たい南極海、そして地球で最も深いマリアナ海溝。挑戦はまだまだ続く。
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