パリオリンピック、2回戦でまさかの1本負けとなった阿部詩選手、その6日後混合団体初戦に出場し1本勝ちをおさめた。涙の敗戦から6日間、何が詩選手を変えたのか。練習パートナーの森和輝さんが初めて明かす。パリ個人戦当日、詩とウォーミングアップをする練習パートナーの森さんは、稽古相手はもちろん、コーチとして指導することも。さらに体のケアや洗濯など、あらゆる面でサポートし、詩選手が心を許すかけがえのない存在だ。2人にとって忘れられない運命の2回戦、相手の手が詩選手の右目に当たり何度も右目を気ににしていた。この時のことを詩選手は「コンタクトが裏に入って見えていなかった」と振り返っている。柔道人生で初めて海外選手に1本負けとなり、この勝利で勢いづいたウズベキスタンのケルディヨロワ選手は金メダルを獲得。実は大会前から森さんが警戒していた選手で、ケルディヨロワ選手が東京五輪以降に出場した全試合を研究、全81試合野中で谷落としで勝利したのは1度だけだった。詩選手の敗戦から6時間後に行われた兄・一二三選手の決勝戦。詩選手は試合を見ることを拒否したが、森さんに促され意を決して観客席へ向かった。兄の勝利時に見せた涙は“兄妹ふたりそろって金メダル”を目標にしてきた詩選手には嬉しさよりも悔しさが勝った涙だった。6日後の混合団体、詩選手にも出場の可能性はあったが森さんは「2日前から道着を着て打ち込みすると泣いちゃった。どう立ち直らせたら良いかわからなかった」などと話した。詩選手が心を動かしたのは練習場で見た“ある先輩”の姿。6歳年上の高市未来さんだ。高市さんはパリは3度目のオリンピックだったが詩選手と同じ2回線敗退となり、五輪では個人戦でメダルを一度もとれなかった。それでも、次の日にアップ会場にいたりしている姿を森さんは「すごいなってふたりで言って」などと話した。高市さんの戦い続ける姿勢をみて、詩選手は混合団体出場を決心した。敗戦から6日後、再びオリンピックの畳にあがった詩選手は勝利し銀メダルを獲得した。試合後、詩選手は「人生最高の日を経験したこともあり、人生で一番悔しい思いをした日も五輪、成長した自分自身で畳の上に建てるよう、ここに誓います」と話した。また五輪後、支えてくれた森さんに「何があっても隣で支えてくれました。本当にありがとう」と感謝のメッセージをおくっている。来年6月に行われる世界選手権、詩選手は五度目の優勝を目指し歩み始めた。