イラクにおける大量破壊兵器の存在を疑うパウエル氏は首席補佐官のウィルカーソン氏をCIAに派遣。ウィルカーソン氏はCIA副長官が核開発のウラン濃縮に使うためのチューブを持ってきたと話した。CIA副長官は2000年にイラク行きのコンテナから押収されたアルミチューブと説明。しかし、専門家による鑑定でウラン濃縮に使うためのチューブではないことが分かったが、鑑定結果は黙殺され、真実は封印された。CIAはほかにも大量破壊兵器の根拠を示した。バグダッド郊外に農作物の加工場に見せかけた移動式の生物兵器工場があるという。現地に工場は存在していたが、小麦の種を作るための工場だった。偽情報をCIAに提供したのはイラク人技術者。この人物はバグダッド大学を首席で卒業し、生物兵器製造の極秘プロジェクトを任されていた。彼は工場の炭そ菌が漏れ、12人が死亡し、自身も感染したと証言したという。CIAはこの情報源を「カーブボール」という暗号名で呼んでいた。カーブボールの元上司に話を聞いた。カーブボールは1995年に金銭の不正で会社を解雇されていた。1999年、ドイツに亡命し、情報機関に拾われたという。CIAは炭そ菌事故を裏付けるために専門の医師をドイツに派遣。もしも感染していれば、血液中に抗体が見つかるはず。しかし、血液検査の結果、抗体は確認されなかった。カーブボールが信用できないという情報は国連演説の前夜、現場からテネットCIA長官に電話で伝えられたという。演説前夜のリハーサルでパウエル氏はテネットCIA長官に念押しした。2003年2月5日、国連演説当日。パウエル氏はテネットCIA長官を従えてやって来た。この演説ではあのアルミチューブが核開発の証拠とされた。衝撃を受けたのは鑑定に携わった専門家。演説にはデタラメと評価されたカーブボールの情報も使われる。ほとんどのメディアがパウエル氏の言葉をそのまま報じたことで嘘は真実となる。CIA内部ではなぜ戦争を推し進める情報だけが政権トップに伝えられたのか。ブッシュ親子とサダム・フセイン大統領との因縁にふれたCIAの文書がある。