今回のパリ五輪では紛争や迫害により故郷を追われた難民アスリートによって構成される難民選手団に、過去最多の37人が参加する。一方で争いが続く母国を離れ日本でトレーニングする選手もいた。パリ五輪陸上・男子800m・南スーダン代表「グエム・アブラハム」25歳。南スーダンは2011年にスーダンから独立した、世界で最も新しい国だ。独立前には宗教や民族などの衝突から長年紛争を繰り返してきた。独立後も南スーダン国内では民族的・政治的争いによる対立が続いてきた。南スーダンは国民の約3分の2が深刻な食糧不安に直面しているという。そうした国で生まれ育ったアブラハムは高校時代に陸上に出会った。過酷な環境でトレーニングを続け、2017年には南スーダンの全国スポーツ大会800m・1500mで優勝し、念願だった東京五輪に出場した。南スーダン選手団の事前キャンプを受け入れていたのは群馬・前橋市。前橋市はトレーニング環境だけでなく、食事や住まいなどを全面的に支援した。しかしアブラハムは、大会を終えて母国に帰ると再び厳しい生活に戻り、練習もできず、アスリート人生を諦めかけていたという。そこに救いの手を差し伸べたのがプロチームを運営する陸上選手・楠康成だった。アブラハムとは以前前橋でトレーニングをして友だちになったという。楠は2022年、アブラハムをプロのアスリートととして自身のチームに迎えた。そしてトレーニングを積み、アブラハムは2度目の五輪出場を決めた。