製造している化粧筆を見学。この工場では800種類以上作っている。化粧筆は立体に筆を当てるため、丸い形状になっていることが多い。化粧筆ごとに用途が違い、好みや肌質によって最適な筆が異なる。化粧筆を使うと必要な化粧を必要な分だけ薄く均一に塗ることができるため、多くのメークアップアーティストが愛用している。自社ブランドだけでなく国内では200社、海外では50社ほどろ取引しているという。
「薄く均一に塗れる筆 どこで使われている？」とクイズが出た。正解は「鑑識が使う指紋採取用の筆」。一般的には白いハケを使って粉をつけていくが、粉がつき過ぎて余分な粉を落とす必要がある。筆は粉を一度に薄くつけられ、余分な粉を落とす必要がない。
化粧筆の製造現場を探検。こちらの工場では140人の従業員が1日約2万本を主に手作業で製造している。まずは毛の選別をしていく。仕入れた毛の中には化粧筆に向かない毛が混ざっている。くしで曲がっている毛や縮れた毛を取り除く。悪い毛のキューティクルが剥がれた出っ張りにはんさしが引っかかって取り除かれる。
こちらの工場で作られる化粧筆のほとんどは2種類の毛をブレンドして作られている。違う毛を2層に重ねて伸ばし折りたたむのが熊野筆の伝統的な技術だ。化粧を薄く均一に乗せるためには適度な筆先のしなりが重要。柔らかすぎると化粧の粒子を薄く伸ばすことができないが、逆にコシがありすぎると粉を根こそぎ持っていってしまう。
穂先作りは化粧筆独特の丸い形状を作る難しい作業で、その作業は工場長自らが担当する。毛束を木型に入れ形を作り、針金でしめて形を整える。この工場では一度も毛にハサミを入れることはない。毛先を切った筆は毛の断面が平らになっているため、化粧を乗せた際に先端にまとまってついてしまう。
筆の穂先ができあがったら糊を塗って金具で固定し、軸を取り付ける。工場の目の前にある民家のような建物で創業者の会長が最後に検品を行う。大量の毛束から悪い毛を見つけ取り除く。会長はもともと伝統的な絵筆の製造に携わっていたが1960年代から海外の多様なファッションが流行しメークも多様化、1980年ごろに日本で一般的ではなかった化粧筆に注目し開発に乗り出した。伝統の筆作りで新しい市場を開拓した功績が認められ、ものづくり日本大賞を受賞した。