着床前診断は体外受精でまず複数の受精卵を用意し、一部の細胞の特定の遺伝子を調べる。異常が見つからなかった受精卵を着床させることで遺伝性の病気の妊娠出産につなげる狙い。遺伝性の病気を避けられるという見方の一方、命の選別が許されるのか、障害ある人への差別を助長するのではないかという意見もある。従来日本産科婦人科学会は遺伝性の病気について、成人になるまでに日常生活を強く損なう症状が出たり死亡する病気と定義した。最初に承認されたのは2004年で2015年までに100例余が承認され、2022年に対象を拡大した。対象拡大後の2023年、過去最多の72例の審査が行われたことがわかった。承認された58例36疾患の中には成人になるまでに命に関わるケースが少ない対象拡大前にはなかった病気が含まれた。学会は病名だけで決めるのではなく、生活の背景や立場などについても個別に検討している。中村解説委員は学会がルールを作り審査するのは限界があると指摘した。生殖医療をめぐっては、2000年には厚生省専門委員会が報告書で倫理的・法律的・技術的側面から検討し提言などを行う公的機関の設置を求めている。2008年には日本学術会議の検討委員会が公的な常設の委員会を設置し政策立案などをするよう提言している。イギリスでは着床前診断について法律で規制し、不妊治療の研究・診療などを監督する機関を設置している。