御年100歳の比留間榮子は現役の薬剤師。彼女が働いているのが板橋区の住宅街にある小さな薬局。利用するのは近所の人たちがほとんどで、常連客なら顔色や話し方などで体調の変化を感じ取れるという。その人に適した薬の飲み方を丁寧に説明する。長い間、地域の患者に寄り添ってきたからこそこういうことができる。榮子が的確な処方ができるのも新しい薬の効能について勉強を続けているから。使うのは自分のパソコン。オンライン会議に参加して同業者と意見交換するなど最新の知識習得に余念がない。スマホもお手の物で、SNSでは日々の出来事や日々感じたことも発信している。自分には役割があることにいつも感謝の気持ちがあふれている。この勉強熱心さには父親の存在がある。薬剤師だった父親は開発される薬について学ぶことを欠かさない人だった。21歳で資格を取った榮子は父親から最新の知識のもと利用客に奉仕することが薬剤師であると教わった。薬剤師になって80年、榮子は話を聞き利用客の生活スタイルも把握しようとしている。ときに身の上話にまで及ぶこともあるという。定期的に薬を受け取りにくるこちらの女性は独り暮らしのさみしい思いを榮子に打ち明けた。こうした相談も健康面では大事になる。そんな榮子も体力的に働くことが難しくなっている。4年ほど前に転倒して足を骨折してから週に1日しか店に来ることができなくなった。そんな榮子を支えているのは孫の康二郎。祖母に憧れて薬剤師になり、祖母のような薬剤師を目指しそばに寄り添って榮子ができなくなった立ち仕事などをサポートしている。榮子は待っていてくれる人がいるかぎり店に立ちたいと考えている。康二郎も薬剤師となったが、高校生のひ孫も薬剤師を目指したいと言っており、榮子はSNSでとてもうれしいと気持ちをつづっている。