事業承継型のM&Aはここ10年で3倍以上に増加したが、従業員や元経営者から思い描いていた事業承継と程遠いという訴えが相次いでいる。勤めていた会社を辞めざる得なくなった井上さんは従業員約15人の中小企業で働いていた。去年M&Aで会社は新たな経営者に引き継がれた。経営者は主要な顧客に一方的に商品の販売をやめるメールを送り、営業担当の責任者だった井上さんは不信感を抱いた。取引先への支払いなどが滞り経営者はほとんど出社しなくなった。9か月後、経営悪化による事業整理として社員全員が退職することになった。元経営者に話を聞いた。会社は創業から10年余で年商約30億円まで事業を拡大。コロナ禍で売り上げは3分の1まで減少し病気もも使ったため事業承継を決意した。会社を譲り渡した貿易会社A社との契約書には従業員について1年間は雇用契約を継続させるとされていたが、約束は守られなかった。新潟の会社をA社に譲り渡した元経営者・永井さんにも話を聞いた。A社が引き継いだあと生産がストップし、従業員は退職した。永井さんは目的は会社の資金を吸い上げることだったのではないかと考えた。会社の事業停止は下請け会社に損害を与え、地域経済にも影響を与えていた。A社代表の男性は後ろめたいことはしていないと取材に応じた。買収した企業から資金を1つに集め経営状況に合わせて配分する計画だったが、買収先の経営が相次いで悪化し資金の供給が追いつかなくなったという。現在の状況は事業再生の途上であると主張した。