広島県を代表するのりの産地で繰り広げられた漁業者の奮闘について。福山市の田島地区では県内ののり生産のおよそ8割を担う。のり師の兼田敏信さん。ここ数年チヌ(クロダイ)にのりを食べられる食害に悩まされてきた。去年の被害額はおよそ7000万円その前の年から3割増しで年々増えている。のりの養殖には種付けから収穫までおよそ3か月かかる。初めて収穫されるのりは一番のりと呼ばれ価値が高くいかに質のよい一番のりが取れるかどうかがその年の漁の決め手。しかし昨シーズンは一番のりがすべて食べられてしまった。兼田さんは20年前から食害を防ぐための対策に取り組んできた。「ギョニゲール」で高さ2メートル厚さ0.3ミリのステンレスの板を海中に沈め不規則な動きと光の反射で魚を遠ざける作戦。これまでは一定の効果があったが最近ではギョニゲールを付けてもチヌが近づいてくるように。そこで兼田さんは新たな手を考えた。船の音でチヌを追い払う作戦。兼田さんは2隻の船を購入。船は、のりの網の上をひたすら走り回る。船は網の上を走れるように改造したスクリューのない特別な仕様。この船で網の真上を走ることで網ののりを落とすことなくチヌを追い払えるのではないかと考えた。朝8時から夕方4時半まで毎日船で走り続ける。燃料代と人件費を合わせても被害のほうが大きい。ギョニゲールと船両方作戦で収穫できるまで2週間走り続けた。12月下旬待ちに待った一番のりの収穫。昨シーズン取れなかった一番のりが無事収穫できた。大切なのりを守るためチヌと人との知恵比べはこれからも続く。被害は瀬戸内海だけでなく東京湾など全国各地で見られる。広島県ではのりに限らずカキの稚貝やアサリなどに魚の被害が広がっている。実は魚による食害以外にも漁業者を悩ませているのが海水温の上昇。のりの養殖の期間が短くなり魚による食害とのダブルパンチで年々、採算を取るのが難しくなっている。