3月下旬、雪がだいぶ緩んできた。ヤマトだろうか、雪崩の近くの木の枝で震えているサルがいる。雪崩の直後、信じられないような光景がみられた。おずおずと雪崩のあとに近づいていくサルがいた。ヤツデとヤマトもやってきた。待っていたかのように他のサルたちも集まってくる。雪崩のあとにあらわれる地面では秋に落ちた木の実を見つけることも。春を待つ草の根を見つけることもできる。サルたちに死をもたらす恐ろしい雪崩は、同時に一足はやく春の食料を供給してくれる自然の恵みでもあった。白山のニホンザルは人間の考えをはるかに超える形で豪雪の山に生きる術を身に着けていた。水野さんが冬のニホンザルに強く惹かれるのはそのためかもしれない。産まれてすぐに死んだのか、母サルはいつまでも我が子を離そうとしない。こうした光景は珍しいことではない。白山では毎年数頭の子猿が産まれてまもなく死んでいる。生まれてきた命にとって誕生直後の春と初めての冬を越すことが最大の難関。