夜の店で働き、出産を決断した女性を取材した。2021年11月にグランプリ発表となった「ナイトクイーングランプリ」の出場者で、夜の店の従業員たちが指導を受けながら所作や内面の美しさを審査される。「サキ」さん・30歳は店ではトップクラスの稼ぎ手、歌舞伎町の店での源氏名は「アンナ」。昼間は「ミルリトンカフェ」の店長・共同経営者の顔を持つ。コーヒーは飲めないがラテアートなどを勉強、オーストラリアまで行ってカフェを学んだことも。2016年開業、瓶入りのインスタ映えドリンクは2017年に「めざましテレビ」で紹介されたこともある。「サキ」さんはキャバクラの稼ぎと融資を投じて店をオープン、共同経営者の男性「永田」さんは現在も夜の街で働いている。2人は店を開いてから最近まで交際関係にあったという。
取材を始めた2021年、「ミルリトンカフェ」は赤字続きだったが、2人は夜の店の稼ぎで補填して店を続けていた。「ナイトクイーングランプリ」に出場していた「サキ」さんは、有名になって夜の店の稼ぎを増やすためにエントリー。研修に顔を出さなくなり、リモート取材すると妊娠中だったと告げた。3週間前に新型コロナに感染、病院での検査で判明したという。相手の男性とは4か月前に街で出会い交際を始めたが、別れてから妊娠が判明。過去に子宮頸がんを患って妊娠は不可能と言われており、妊娠したからには産みたいと決意したという。
2021年9月、「サキ」さんは妊娠4か月。夜の仕事を休んで経済的に苦しくなり、妊婦健診などの実費負担が払えなくなっていた。貯金はカフェの赤字を補填して消えたという。「サキ」さんは1990年生まれ、中学時代は宝塚音楽学校を目指して予備校に通ったことも。入学はかなわず、18歳で神奈川・新百合ヶ丘の実家を出て夜の店で生計を立てながら暮らしていた。実家は美容室、2019年冬からチーズケーキ専門店に鞍替え。コロナの感染拡大で借金がかさんでいるという。母の「マリコ」さんは、娘は強いので子どもを生んでも生きていけるはずと述べた。両親は娘と仲が悪く、こちらから電話をかけても拒否されるという。父の「タツノリ」さんは、宝塚を目指した時に苦労をかけたと思っているのか、大人になってから金の相談を受けたことはないと述べた。
「サキ」さんは妊娠で酒が飲めなくなり、キャバクラを辞めてカフェの仕事に専念しながら出産を目指した。店では主力のアルバイト2人が通えなくなり、国の協力金も出なくなったことから穴埋めが必要になったという。「サキ」さんは行政にも相談し、生活保護の受給をすすめられていた。ひとり親に対する支援はあるが、出産前の生活困窮に対するほかの支援はないと言われたという。妊娠5か月の検診ではお腹の中のわが子の姿を見せられ、出産への思いを新たにした。3日後、「サキ」さんは銀座で妊娠中も働ける夜の店を探し始めていた。