香港といえば一国二制度のもと高度な自治が認められてきたが、ここ数年統制が強められ社会は変わってしまったと言われている。最大の転機となったのは香港国家安全維持法の施行。政府に批判的な動きを取り締まるこの法律ができてからまもなく5年となる。定義が曖昧で解釈は当局次第。市民は摘発されるリスクを恐れて口を閉ざす空気が蔓延している。若者の今を取材した。陶芸教室を営む劉家棟さんはかつて香港の民主化を訴えていた。劉さんが社会運動に身を投じたのは高校生のとき、雨傘運動がきっかけだった。2019年に起きた政府への大規模な抗議活動にも連日足を運び、自由や民主化を求める人々と行動を共にした。デモの参加者にけが人がでないよう警察との調整役を務めていたが、公務執行妨害の罪に問われた。最終的に懲役8か月の判決を受け、収監された。4年前に出所してからは自分と同じように服役した若者に手紙を書いたり面会したりするなど、精神的な支援を行うソーシャルワーカーとして活動を続けてきた。ところが、その活動にも制限が。去年12月、突然ソーシャルワーカーの資格を停止された。詳しい説明はなく一方的に通知された。今も警察から呼び出されることもあり、日々の言動に気をつけるようになったという。劉さんは「国家安全維持法ができてから香港全体が圧力に包まれている」などと述べた。社会の統制が強まる中、共に活動した多くの仲間が海外に移住した。劉さんは香港に留まり、生きる道を探し続けている。劉さんのように当時抗議活動をするなどして逮捕された人は1万人以上にのぼり起訴され、今も裁判が続いている人もいる。法律の施行後、約30万人が海外に移住したとも言われている。国際部・小宮デスクは「香港の今を見つめることは大切なものを失うと何が起きるのか考えるきっかけになると思う」などとコメントした。