視点・論点 (視点・論点)
本州と北海道ではクマが市街地に現れる事例が増加、死亡事故も発生している。ことしは北海道でミズナラのどんぐりなど秋の木の実成が悪いため、夏から出没が増加していると考えられる。クマが人の生活圏内に侵入してくる問題が急増している背景には、まずクマ側の変化が考えられる。日本では1990年代以降、クマ類との共存を目指し過剰な駆除を抑制しながら管理が行われてきた。その結果、四国をのぞくほぼ全ての地域で個体数が増加し、人の生活圏に近い場所にまで分布が拡大するようになった。人の生活圏の近くで生まれ育ったクマたちは人の気配や車の音などに親しんで育ち、人に対する警戒心が低い個体が生まれてくる。また、農村部から人が減り始め耕作放棄地が増加、かつて人の生活圏であった場所が野生動物が滞在しやすい場所に変化してきている。
人間活動の影響による環境危機の一つに生物多様性の危機がある。日本は生物多様性保全に努めていて、生態系ネットワークの構築が進められているが、このネットワークは小動物や小鳥だけでなく大型動物までも都市に導いてしまう。もう1つの危機は地球温暖化。気温上昇はクマ類の主食である植物の成長時期や期間を変化させる。凶作年の頻度が増えればクマが出没する頻度も高くなる。地域社会はこれらの変化を受け止め、クマに強い地域づくりを実現しなければならない。縮小していく人間社会がクマ問題と向き合うためには棲み分けを前提に、時と場所に応じて必要な駆除も受け入れながら、自分事として対策を続けていくことが重要。