テレメンタリーPlus 戦後80年ノー・モア・ヒバクシャ NEVER AGAIN NAGASAKI
長崎大学核兵器廃絶研究センターの鈴木客員教授は、米露の核戦略や安全保障の専門家らとともに北東アジアで核兵器が使われうるケースを洗い出し、その被害規模を世界で初めて試算した。「核の傘の国がまずターゲットになる。アメリカを狙うにしてもグアムとか沖縄とアメリカの基地を狙う。佐世保や横須賀はターゲットになるかもしれない」と指摘。北朝鮮ICBMによる本土攻撃を恐れたアメリカが北朝鮮の核ミサイルシステムを核攻撃するケースでは「これに対し北朝鮮は韓国や日本を核攻撃する。その後中国が米軍基地を核攻撃し、アメリカが核で反撃。結果的に死の灰が紛争地以外のところに及び、当然日本もカバーされてしまう。死者数は210万人」と分析。テロ組織が東京のビジネス街で密輸核弾頭を爆発させるケースでは、数カ月以内に22万人、翌年最大160万人が死亡し、最大56万人が放射線誘発性がんで死亡すると推計される。台湾有事から米中核戦争にエスカレートする最悪事例では、短期死者260万人、長期死者が最大83万人と推計。「日米韓で核抑止力の強化という方向に動いているが、我々の結論から言うと、強化すればするほどかえって核兵器使用のリスクを高めてしまうということが一番大きな教訓」だと語る。
2024年オスロ大学で行われたノーベル平和賞フォーラム。出席した、長崎原爆の被爆者であり医師の朝長万左男さんは、半世紀以上にあたり白血病研究や被爆者医療に心血を注いできた。現在も被爆者の養護ホームで診療を続けている。また原爆投下を正当化する考えが根強いアメリカで核兵器廃絶を訴えるキャラバンツアーを発案。被爆者や2世、3世らで米国3都市を巡り、計21回の集会で延べ約1000人の米市民と対話した。「特に若い世代に生の声を聞いてもらって、核のない世界を自分たちの世代でつくるんだぞということを考えるきっかけにしてもらえれば」また「被爆の実相を伝えることが大事なんだけども、お願いしてきただけでは今が限界。被爆者として今後核兵器をなくすためにどうしたらいいかという考えを述べた方がいい。(核保有国である)アメリカ人が心の中に受け止めて、自分たちが本当に減らそうと思わない限り、アメリカは手放しませんよ絶対。それは人類に対しての責任ではないか。イギリスでもロシアでもフランスでも同じこと」と語った。ノーベル委員会委員長は日本被団協へのノーベル平和賞授与について「授与すると決めた理由は、彼らが何十年にもわたる努力をして『核のタブー』を創出し維持した功績。道徳的に容認できないと烙印を押す国際規範を生み出し、核兵器のない世界を創る上で果たした役割に対する評価です」「高校生平和大使のことは認識している。新しい世代が責任を引き継ぎ、日本の若者だけではなく世界に伝える方法の一つ。大事なのは、彼らだけの責任ではないということ。被爆者のメッセージを引き継ぐのは地球上全ての人が共有する責任」と語った。
高齢化する被爆者の願いをつなぐ若者がいる。元高校生平和大使で被爆3世の山西咲和さん。平和大使を務めた2018年以降、7年以上にわたって国の内外で長崎の被爆者の体験や思いを語り継ぐ活動を続けている。「おばあちゃんの笑顔が大好きだったから、その笑顔を奪う原爆って何なんだろうって思い始め、少しづつでも向き合っていきたいという気持ちが芽生えてきた」と語る。これまで多くの被爆者の声に耳を傾け、海外や学校などでも講演を行ってきた。山西さんは高校卒業後海外の大学で国際安全保障や政治社会学などを学んだ。メルボルン日本人学校で祖母の被爆体験を伝える会を行った。「世界の仕組みは一部の人が決めているように見えて、私達市民の動きが大きく関わっている。核兵器はだめだという思いを世界に向けてアピールし続けていくというのは小さくても出来ることかなと思う」と語った。