- 出演者
- 桑子真帆
先週、韓国のユン・ソンニョル大統領が突如宣言した非常戒厳。国会周辺では軍や警察と市民がもみ合う事態になった。韓国が民主化して以降、1度もなかった宣言がなぜ今出されたのか?非常戒厳の背景に過激な思想があると指摘する声もある。独自分析で迫る。
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オープニング映像。
おととい、国会前には15万人を超える市民が集まった。弾劾を求める人々の多くが口にしたのは非常戒厳を宣言したユン大統領への怒りや戸惑いだった。長年、韓国政治を研究している神戸大学の木村幹教授。弾劾を求める市民が多い中で木さんはユン大統領を支持する保守派の集会を訪れた。保守派の集会繰り返されていたのは4月に行われた総選挙で不正があったとの主張。ユン大統領を支える与党・国民の力が大敗した4月の総選挙。北朝鮮との対話を重視する野党が過半数の議席を獲得した。少数与党を率いるユン大統領は予算や人事案を通せず難しい政権運営を迫られていた。さらに、夫人をめぐる疑惑も重なり、支持率は低下していった。こうした中、一部の保守系のユーチューバーが持論を展開。4月の総選挙では野党が勝利するように北朝鮮が操作したと主張した。さらに、野党が従北・北朝鮮に追従しているとする動画も拡散された。100万人以上の登録者を持つ人物が発信していた。こうした主張が広がる中で宣言された非常戒厳。軍は300人を中央選管庁舎などへ展開した。非常戒厳を大統領に進言したとされるのはキム・ヨンヒョン前国防相。大統領の高校の先輩で強行な保守派として知られている。不正選挙疑惑の捜査の必要性の判断のため、選挙管理委員会は軍の投入を決めたと伝えられている。ユン大統領は非常戒厳を正当化していた。
木村幹教授は若い人たちを中心に様々な形でデモに参加している様子が印象的だという。一方で極端な主張が権力を動かしうると感じたという。今回の非常戒厳は韓国の民主主義の制度的な問題を改めて浮き彫りにしたという人もいる。ジャーナリストのソ・テギョさんは、非常戒厳が出された日も軍に拘束されるリスクを感じながらも封鎖された国会に取材に向かった。ソさんの脳裏に浮かんだのは過去に非常戒厳が出された軍事政権の時代、1980年に民主化を求める市民によって軍が無差別に発砲した光州事件。死者・行方不明者は多数にのぼった。再び社会が逆戻りするのではないかとソさんは軍事政権時代と同じ戒厳令が今も大統領権限として残っていることに強い違和感を覚えた。韓国を揺るがす混乱、軍事政権時代から続く大統領の強大な権限。木村さんは韓国の民主主義の今に根深い課題をみている。
今回出された非常戒厳、一切の政治活動の禁止、すべてのメディアを統制、令状がなくても逮捕・拘束するという市民の権限を強く制限するもの。西野純也氏はそれなりの理由がないと出してはいけないもの、非常戒厳を出せるのは戦争かそれに準ずる状態、社会秩序が乱れている状況のときに戒厳が出せるとされているが、今回の状況はそうではない。今回の大統領の非常戒厳の発令は憲法に背く行為、重大な過ちを犯した行為と言わざるを得ないという。ユン大統領は国会との対立が厳しくなる中で、国会が反国歌勢力に乗っ取られる形で立法府による独裁を行っている、国家的な危機を自分が救うという切迫感があったと説明している。韓国は大統領中心制だが、国民が直接選ぶ大統領の他に国会議員も国民が選ぶ。国民が選ぶ2つの代表が政治を行うことになるが、現在の韓国では分裂、分極が進んでいる。ユン大統領の個性が強く作用していることもある、極端な決断をしたの政治経験がなく大統領になったこと、行き詰まったときにどう打開するのかを学んでいなかった、大統領は与党から招かれる形で大統領になったので個人的なパーソナリティの問題が背景にあるという。韓国では保守と革新の考え方が分極化している。保守は北朝鮮に対して厳しい姿勢だが、革新は対話を重視している。
韓国の国会前から中継。周辺ではユン大統領の退陣を求めて多くの人たちが集まっている。弾劾の議案の廃案後もユン大統領が直接発言する場はなく、辞任を求める声が以前として勢いがあるように感じる。一方で市街地ではいつも通りの日常が続いている。市民の声がどこまで広がるかが大きなポイント。おとといの国会の本会議でほとんどの与党議員は弾劾の議案の投票に参加しなかった、弾劾を求める市民の声がさらに大きくなれば弾劾に賛成する与党議員が出てくる可能性がある。ユン大統領に対する捜査の動きが明るみになってきた。警察の特別捜査本部が内乱を企てた疑いなどとして捜査をしている他、法務省がユン大統領を出国禁止にした。スタジオの西野さんは野党は弾劾が通るまで訴追案を出すとしているが、与党は国務総理を中心に国政をするとしている、いかなる形でも過ちを犯した大統領がこのまま職にとどまることは許されるのかという国民の疑念はあると思うとした。
国会安全保障会議アジア部長のビクター・チャ氏。北朝鮮の脅威が高まっているこの時期に韓国でこのような政治的混乱が生じているのはアメリカにとって理想的ではないという。バイデン政権はユン大統領を頼りにしていた、前政権の北朝鮮重視の政策から日本をはじめとするアジアの民主主義諸国との関与を深める外交政策に大きく転換させたからである。アメリカが最も期待する1つがバイデン政権下で確立された日米韓協議の継続だという。
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韓国の政局が混乱する中での日韓関係について西野純也氏はこれまでの日韓関係の改善はユン大統領の力強いリーダシップに依存していたといえる、これが難しくなるとすると日韓関係にとってはマイナス。日米韓関係についても、本来であれば日本と韓国が協力してこれまでの日米韓協力を支えてさらに発展させていかなければならない、そのタイミングでの出来事なので日米韓関係にとってもマイナスだという。西野純也氏は1回目の弾劾訴追案が可決されなかったことで先行きは不透明、世論の動向、当時の状況がどれだけ明らかになるかが注目だとした。
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ノーベル文学賞を受賞したハン・ガンさんは、2024年に再び戒厳状況が展開されたことに衝撃を受けたとい話す。代表作の「少年が来る」はかつて非常戒厳が出され市民が弾圧を受けた時代を被害者目線で描写している、今この作品が韓国でベストセラーとなっている。ハン・ガンさんは今の状況が過去と異なる点はすべてが生中継で放送され、すべての人が目撃することができた点、武力や強圧で言論を統制する過去の状況に戻らないように願うとした。