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オープニング映像。
山梨県甲府市、ビルの合間にある19坪の細長い建物。5階建てのビル全てがおよそ70年続く美容室。名取喜美枝さんは92歳で現役の美容師、生涯独身で美容師一筋で生きてきた。従業員は長く勤めてきた美容師が3人。そして姪の五十嵐有子さんは店の番頭。名取先生にとって姪の有子さんは山梨に暮らす唯一の親族。叔母と姪が中心となって店を守っている。
名取先生は昭和3年南アルプス市生まれ。昭和22年18歳で地元の美容院に住み込みで働いた。昭和24年山梨初の美容師免許を取得、昭和28年に甲府にウイット美容室を開店した。全盛期は多くの客で賑わった。有子さんは夫とは離婚し子どもたちは独立した。有子さんは従業員のために店の立て直しに奔走し全盛期とは違う身の丈にあった店として存続させてきた。
生涯独身の先生は全盛期に建てた一軒家に暮らす。腰の骨にヒビが入り入院していたが退院した。先生がいなくなった美容室では3人の美容師と有子さんが店を守っていた。先生は人生で初めて杖を使い始めた。先生は店に行かなくなったが、それでもリハビリを続ける。病院で検査の結果、首にメスを入れなければならなくなった。常にベストを尽くしてきた美容師人生、精一杯仕事一筋で生きてきたという。
2022年秋、先生がハサミを持たなくなって1年以上。自宅で転倒し起き上がれなくなることが続いた。1人で暮らせなくなった先生は一旦介護施設に入った。有子さんは自宅の離れに先生を連れてきて面倒を見ることを決めた。離れは有子さんが住んでいる母屋とは廊下でつながっている。何でも一人でやってこられた先生は今はそれができない。先生は「仕事ができなくなるほど辛いことはない」などと話した。
叔母と姪の2人きりの生活が始まった。有子さんと先生は一緒にご飯を食べない。有子さんは高齢者の集まりを取り仕切っている。先生は生まれ故郷で暮らす同世代からは成功者として持て囃される。素朴に生きる有子さんとは対象的に、先生は時代の先端を生き庶民が憧れるような生活をしていた。その頃から次第に距離が生まれたが最後は自分が面倒を見なければいけない現実に、やり場のない悔しさが生まれる。先生は1週間のうち6日間は介護施設で過ごすことを話し合って決めたという。介護施設で、先生だけは自前のヘアアイロンを使う。
先生が暮らした甲府の家は手放すことにした。骨董品が好きだったという。先生は自分の店とは思わなくなったと話した。美容室は70年を迎え記念コンサートを計画していたが、ボイラーが壊れ予算が足りなくなってしまった。有子さんは大切な思い出があるお菓子を70周年の記念に店で配ろうとしていた。
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店は創業70周年の節目を迎えることができた。記念のコンサートはできなかったが、有子さんは大切なお菓子を70周年の記念に選んだ。有子さんが小学生だった60年前、美容師として活躍していた先生が当時流行っていたなかなか食べられないお菓子を買ってきてくれたという。
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2024年元日、有子は96回目のお正月を有子さんとその娘の3人で迎えることができた。美容師の頃は年末年始は大忙しだったという。2人の生まれ故郷にある小さな神社でお参りした。生きてきた世界が全く違った叔母と姪。美容師一筋、自分のやりたいことを精一杯やり尽くした叔母を姪は反発しながらも受け入れ続けてきた。そんな巡り合わせが叔母と姪の幸せの形という。
エンディング映像。