- 出演者
- 合原明子 明官茂
都内の小学校に通う1年生のユミさん(仮名)が週に2コマクラスを離れて向かうのは、発達障害のある子どもなどが特別な指導を受ける通級指導の教室。ADHDと診断されたユミさんは、学校生活で躓かないように指導を受けている。子供たちの成長を支える通級。ところがその指導を受けられないという声がNHKに相次いで寄せられている。中には通級に入れず2年以上不登校の状態が続いている子どもも。学校でいまなにが起きているのか。
今、教育現場では障害がある子供たちのために様々な特別支援教育が行われている。中でも発達障害などの子どもが普段のクラスに在籍しながら利用できるのが通級指導。指導に当たるのが担任と別の教員で特別な資格は必要ない。この通級を利用する子供の数はこの10年で約3倍に増加している。そうした中、通級指導を受けられないという多くの声がある。と何住む小学5年のケンタくん(仮名)。医師からは自閉スペクトラム症の傾向があると言われている。予測していないことが起きるとパニックになる。2年生から不登校が続いているケンタくん。パニックになった時に気持ちを切り替える方法を学べば再び学校に通えるのではないかと考えた母親は通級に申し込んだが、学校からは希望者全員は受け入れられないと回答されたという。その結果通級に入ることは出来なかった。ケンタ君はもし怖くなかったらしてみたいことを聞かれると「一緒に鬼ごっこをしたりそういうのがしたい」などと答えていた。
希望しても入れない通級の背景にあるのは教員の不足。江東区立豊洲小学校 教諭の吉川美穂さんは、教員歴14年。4年前から通級を担当している。東京都では通級で教員一人当たりが持つ児童数を12人という基準を設けている。しかし吉川さんは一時期基準を超える15人を受け持っていた。原因は通級を希望する児童の急増。当初20人ほどと見込まれ二人の教員が配置されていたが、4月実際の希望者は31人に上った。吉川美穂さんんは、正直言うと12人でも結構いっぱいで、それ以上になると一人ひとりに対する凌が滞ってしまうラインだと話す。統括校長の喜多好一さんは、人員を配置してくださいと要望を出してきたところ、実際は通常の学級でも定数が足りない状況なので配置は難しい、などと明かした。学校は半年かけて元教員を探しだし、通級担当をなんとか補充することが出来た。発達障害の児童の急増に追いつかない教員の確保。今教育現場は重い課題を突きつけられている。
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- 江東区立豊洲北小学校通級指導教室
東京都内の全区市町村に、通級の利用実態についてアンケートを実施した。教員不足などが原因で利用までに数ヶ月かかるケースが有るなどと答えた自治体は7つに上った。明星大学 教授の明官茂さんは、2004年に発達障害者支援法が出来、2006年には通級の指導が発達障害も対象になったということで発達障害の理解が深まったことで、通級による指導を活用するようなことになった、活用することで成果が出てきているということで実際増えているんだと思っている、などと説明した。NHK首都圏記者の尾垣和幸は小学5年生の息子が学習障害と診断されていて、通級に入りたかったが当時通っていた学校では週に一コマしか受けられないと言われ、別の学校に転校した経験がきっかけで発達障害の子どもの学びを取材してきたといい、現場の教員からもこれ以上求められても困るという悲痛な声も寄せられているといい、実態はアンケートの結果以上に深刻なのではと感じているとした。
都内に住む小学5年生のミカさん(仮名)は、学習障害の傾向があるという。1年生のとき漢字の読み書きが苦手なことに気づいた。他の教科は問題ないが、何度練習を繰り返しても覚えられない漢字があるという。ミカさんの母親は、漢字の読み書きについてミカさんにあった学習方法を身に着けて欲しいと通級指導を希望した。しかし、思わぬ壁が立ちはだかる。東京都では発達検査と呼ばれる検査を受けるのが通級に入る条件となっていて、検査の予約を取ろうと自治体に問い合わせるとほとんど埋まっていっる状況で検査を受けるまで1年以上かかった。検査を待つ間に不登校になったミカさん。大好きなバレーボール部にも参加できずにいる。通級に入るための検査は、民間の医療機関などで行われていて、記憶力などを図り検査後の手続きを含めると1人あたり5時間かかる。東京・小平のカラムンの森子こどもクリニック院長の内田創さんは、なかなかマンパワー的にたくさんの患者さんを診ることができない、需要と供給がまったくあっていない状況だと話していた。
今回のアンケートで、検査体制の問題などで利用までに数ヶ月かかると答えた自治体は24の自治体に上った。尾垣和幸は、東京都は来年度の予算で検査を行う心理士の増員など検査の枠を広げる自治体に補助を出す方針だと説明。明星大学教授の明官茂さんは、どんな指導をするのかを考えて指導していかないと有効な指導にならないのでやはり検査は重要な項目になるといい、発達検査は世界的にもかなり研究も進んでいると聞いている反面、検査を行う人の専門性もかなり高くなっていて、検査を行う人を簡単に増やすのが難しくなっているのは聞いている、などと説明した。
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おととし教員になった戸田市立戸田中学校教諭の中野健志さんが初めて担任を任されたのが発達障害などの生徒14人がいるクラスだった。この学校にはそんな中野さんをサポートするLITALICOパートナーズ 精神保健福祉士の宇都綾子さんがいる。問題が起きないように環境を変えることを重視していて、スポンジやシリコンを使って音が出ないようにドアを加工したりしている。担任の中野さんは、専門的なスキルを宇都さんから学んでいる。学校は専門家を招いて教員の成長を促すこの試みに手応えを感じている。特別支援学級主任の中村直子さんは「そのときのその子に対する対応というのが適切な対応が取れるようになってきたと思う」等と話していた。
戸田市教育委員会の戸ヶ崎勤教育長は、ベテラン教師の経験や勘に頼っていたが科学と根拠こそ必要、等と話しているという。明星大学教授の明官茂は、おそらく日本には特別支援教育の経験はないが一生懸命頑張っている先生がたくさんいると思う、特別支援教育のノウハウを通常の教育に活かすことは可能で、それが今求められている、等と話していた。尾垣和幸は、息子が1年ほど前に転校したが、最近になってその前はすごく辛かったと聞いた、なぜもっと早く気づいてあげられなかったのかと後悔しているといい、ただ親は手探り状態で、先生とも情報共有をしながらもみんなで考えていければいいと思う、等と話していた。