日本人の味、特に昔ながらの蔵元で造られたしょうゆにはそこでしか再現できない風味がある。その味を守り続ける土浦市にあるしょうゆメーカー「柴沼醤油醸造」を取材した。創業330年余りという柴沼醤油醸造の蔵の中には67個の巨大なおけが所狭しと並んでいる。大きさは直径およそ2メートル30センチ、高さはおよそ2メートル。ほとんどの木おけが明治時代に作られたもの。国内で生産されるしょうゆのうち木おけ仕込みは僅か1.9%ほどとされている。ステンレス製の容器と比べて温度の調節などが難しいものの味に深みがあり、香りがよくなるということでこの会社では大量生産のしょうゆと差別化して海外向けなどに販売している。しかし、木おけの寿命は150年と言われており、3年前から少しずつ新しい木おけに取り替えている。ことしは30石、およそ5400リットルの木おけ、2本を新調した。頼ったのが大阪堺市のベテラン木おけ職人、上芝雄史。今も使っているおけがあるため新たなおけ作りは僅かなスペースでほぼ手作業で行われている。上芝ら3人の職人はまず古い木おけを解体。そして事前に準備していたおけを囲む側板を持ち込んで組み立てる。最後に底の部分の板を胴突と呼ばれる道具で突く作業が行われた。上芝がおけの中に入って力加減や胴突で突く位置を指示。外にいる職人2人と板が水平にはまるように調整を繰り返していた。材料の準備から交換まで最短で1年かかる上、そのままでは使えない。古いおけで造ったしょうゆを入れてそこに含まれているこうじ菌ともろみを新しいおけになじませる必要がある。それでもこのメーカーでは昔ながらの造り方にこだわり続けたいと考えている。こうしたしょうゆは海外向けが多いものの国内でも再び注目されていて、蔵ごとに味が違うのでぜひ好きな蔵の味を探してみてほしい。