歴史の中で培われた堺のものづくり。包丁もその1つ。鋭い切れ味は名だたる料理人が愛用していることでも知られる。街の至る所に刃物の工房がある。堺の包丁は鉄を叩いて生地をつくる「鍛冶」と刃先を磨く「研ぎ」、「柄付け」を分業して行う。田中義一さんは100年以上続く工房の鍛冶職人。息子・義久さんと昔ながらの包丁作りに励んでいる。この地で作られる「堺打刃物」と呼ばれる包丁は1つの金属から型を抜くのではなく土台となる柔らかい鉄と刃先になる硬い鉄の2つを合わせて製品にするのが特徴。地金と刃金の間に接着用の粉を加えて叩いて吸着させながら包丁の形にする。叩いたことで乱れた鉄の組織を整える「焼きなまし」という作業は昔から藁を使う。藁がゆっくり温度を下げ灰となる過程で鉄の組織が均一になり折れにくくなるという。続いて「焼き入れ」。800度まで熱して水で急激に冷やすことで鉄を硬くする。最後に「焼もどし」。170度の低温で加熱することで独特の粘りを出す。こうして生地が完成する。