ニュースウオッチ9 (ニュース)
「伝統的酒造り」が評価された大きな理由の1つが、こうじ菌を使っているという点。カビの一種だが、こうじ菌を巧みに利用する職人たちの技術は、日本にしかないもので、それが世界に評価された。古来より培われてきた職人の技術、広がる酒造りの可能性について取材。茨城・大洗町の酒蔵。まず米を蒸すことから始まる酒造り。日本酒造杜氏組合連合会会長・杜氏・石川達也さんが、米を蒸したあと使うこうじ菌を見せてくれた。こうじ菌を米に振りかける種付け。一粒一粒に繁殖させるとこうじになる。このこうじが酒の味の決め手になる。こうじづくりで杜氏が気を配るのが温度変化。発育の過程でみずから熱を発するこうじ菌。30度台からスタートし、2日かけて40度台にまで上がるとよい状態といわれている。五感を駆使して、菌の状態を見極めながら育てていく。米の内部では菌糸が根づいていく。48時間後、米全体が繁殖したこうじ菌に覆われる。これが「こうじ」。石川さんは「こうじが自力で、自分で自分をつくっていく」と語った。このこうじが発酵のもとになり、酒が造られていく。
世界に評価された日本の酒造り。しかし国内の日本酒の消費量は1970年代をピークに減少。酒蔵の数も減少。こうした中、酒造りの可能性を広げようという新たな動きも出ている。山口・美祢市の酒造会社は、50年以上休業していたが、6年前に酒蔵を新設。カフェを併設し、酒造りの様子も見学できるようにしたところ、観光客などが訪れる場所となった。事業承継で酒蔵の経営を始めた酒造会社・秋山剛志代表取締役は、以前は米国・ニューヨークで広告の営業をしていた。現地で日本酒の人気を目の当たりにし、酒造りを志したという。秋山代表取締役は「デートで日本食を食べに行って、日本酒を飲むのがおしゃれなステータスの1つ。海外にも販売できればすごくいいと思ったし、酒米を作る農家にとっても地域のプライドになるかなと」と語った。酒造りを通じて、地域経済を活性化していきたいと考えている。当初は3人で始めた新しい酒蔵。現在は約30人が働き、その多くが地元の若者たち。来年には新たな研究施設を作り、雇用を増やしていきたいと考えている。
酒造りの可能性は海外にも広がっている。日本酒がSAKEと呼ばれ、人気が高まっている米国。SAKE醸造所オーナー・トッドベロミーさんは3年前、米国でSAKE造りを始めた。日本で暮らしていたときに、居酒屋文化に魅了されたという。新潟や山口の酒蔵を訪れて、酒造りの基本を学んだという。日本酒の知識がない人に気軽に味わってほしいと、地元のクランベリーや紅茶など異なる味を加えた酒をこれまで100種類以上提供。創業以来、生産量は伸びているということで、今後は米国・ニューヨークや西海岸にも販路を拡大していきたいと考えている。ベロミーさんは「つくりたてでのSAKEを一度飲めば誰もが大好きになる。SAKEを知り、好きになって、“いつものむ酒”の一つに加えてほしい」と語った。
米国でも日本の酒造りが行われていて、これ、無形文化遺産への登録でさらに広がっていきそう。2013年に和食が無形文化遺産に登録されたが、この10年で、海外の日本食レストランは3倍に増えるなど、世界的に人気が高まるきっかけにもなった。