30年の時を経て…“日米コメ戦争” 内幕は

2024年12月26日放送 21:22 - 21:30 NHK総合
ニュースウオッチ9 (ニュース)

来月就任する米国・トランプ次期大統領は保護主義的な貿易政策を掲げているが、30年前の米国は今とは真逆の動きだった。きょう公開された外交文書に記されていたのは、自由貿易の拡大を巡る日米の交渉の内幕。1993年、米国がコメの市場開放を求めたのに対して、日本が初めてコメの部分的な輸入を受け入れた貿易交渉。今回、交渉妥結の際に総理大臣を務めていた、細川元首相が取材に応じ、当時の決断について明かした。30年の時を経て、明らかになった交渉経緯。交渉妥結の10か月前、米国ワシントンで当時の渡辺外務大臣が、クリストファー国務長官と会談。きょう公開された外交文書から、コメの市場開放を求める米国に対し、日本が厳しい態度を示していたことが明らかになった。自由貿易の拡大を目指して作られたGATT(関税および貿易に関する一般協定)のもと、100を超える国や地域が参加し交渉が行われたウルグアイラウンド。交渉で焦点となったコメは、日本では聖域として扱われ、輸入が制限されていたが、米国が強く開放を求めていた。農家からは、安い海外のコメとの競争が生まれ、農業に悪影響が生じるという反対の声が根強くあった。きょう公開された外交文書に記されていたのは、1993年、自由貿易の拡大を巡る日米の交渉の内幕。こう着状態が続く中、今度は当時の宮沢総理大臣が米国・クリントン大統領ら政権幹部と会談。宮沢総理は、ここでも国内の選挙事情を引き合いに出していた。自民党は、この4年前の参議院選挙で過半数割れをしていた。宮沢総理は、その原因は米国の求めに応じて、牛肉などの輸入を自由化したせいだとコメの市場開放を拒否。しかし米国側も強硬な姿勢を崩さない。事態が動いたのは、政権交代を経た細川内閣のとき。この年の12月、GATT(関税および貿易に関する一般協定)側から調整案といういわば仲裁案が示され、妥結に至った。日本のコメについては、全面的な市場開放はしない一方、一定量の輸入を義務づけるという日米双方の顔を立てた形の案だった。調整案が示されたプロセスは外交文書でもはっきりしない中、今回、その内幕を細川元首相自身が明かした。調整案は、日米双方が水面下で固めたもので、あえて中立的な立場のGATT(関税および貿易に関する一般協定)側に提示してもらうよう、日本側から申し出たという。細川元首相は「国内の人たちを説得していくためには、国際機関から案を出してもらって請けいられる形でやっていく方が、(国内の)反対意見を抑えていくうえで効果的なんじゃないかと思った」と語った。さらに妥結直前、細川総理は国内対策としてもう1つの手を打っていた。最終交渉の場に羽田外務大臣を派遣。合意文書に「非貿易的関心事項」という文言を盛り込むよう求めた。これは、将来コメの扱いを改めて交渉する際、貿易面だけでなく食糧事情なども考慮することを確認するもの。コメの市場開放を安易に拡大させないための歯止めをかけたと、国内向けにアピールするねらいがあった。日本側の要求に各国は応じると回答。こうして7年余続いた交渉が妥結された。細川元首相は「“針の穴に糸を通す”ような大変な作業だった」と語った。あれから30年。米国・トランプ次期大統領が保護主義的な姿勢を示す中、細川元首相は「日本には果たすべき役割がある」「自国利益優先の風潮に飲み込まれてしまう可能性もある。非常に危惧すべき。日本にどれだけの政治力があるかわからないが、他の国と一緒に手を握って、方向はしっかり訴えていかないといけない」と語った。ウルグアイラウンドの結果について、当時、農林水産省の職員として交渉に携わったキヤノングローバル戦略研究所・山下一仁研究主幹は「国内外のプレッシャーの中で、選択肢は他にはなかった」と述べている。一方「国内の反発を前に、現状維持に力点を置くあまり、農業改革が遅れ、競争力が伸び悩む要因になった」とも指摘。30年後の今も、米国の動きに国際社会が影響を受ける構図は変わらない。少数与党となった石破政権が今後、どのように対応し、進むべき道を選択していくのか。過去の経験を踏まえた外交と政治判断が問われている。


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