- 出演者
- 桑子真帆
患者数400万人以上とされる認知症の中で最も多いアルツハイマー病。その進行を遅らせる治療薬・レカネマブが去年、保険適用になった。病気の初期段階で効果が見込まれている。新薬の登場で認知症の診断を巡る課題が注目されている。専門医でも迷うケースが多いとされるのが認知症の診断。
オープニング映像。
認知症とは、何らかの疾患によって生活に影響が出るほど認知機能が低下した状態のことをいう。認知症の原因疾患で最も多いのがアルツハイマー病。アルツハイマー秒の治療薬が登場して効果が期待されているが、最近の研究で臨床で診断された人の約4割が誤診と考えられたと報告された。
45歳の長井淳さんは30代前半に物忘れに悩むようになった。この頃、長井さんは親戚が営むカフェを手伝っていた。いとこの久保田真由美さんは一緒に働く中で長井さんの異変に気づいた。長井さんは認知症専門のクリニックを受診した。主治医の朝田隆さんは原因疾患を特定するために専門的な検査を行った。アルツハイマー病でよくみられる脳の血流の悪化が確認された。他の医師とともに検討し、この時点では若年性アルツハイマー病を疑うしかなかった。認知症の原因となる疾患はアルツハイマー病以外に70以上もある。初期症状が似ている疾患もあり、専門医でも診断に悩むケースが少なくない。2年後、長井さんに物忘れ以外の症状が現れる。目のかすみ、手の震えなどの症状が出て、まっすぐ歩けなくなった。再検査を受けると、脳に白いカゲが複数確認され、多発性硬化症という病気が原因の認知症だった。多発性硬化症は脳や脊髄の神経に炎症が起き、視覚や運動などの障害からはじまることが多い病気。長井さんのように物忘れからはじまるケースは珍しい。最初の検査では多発性硬化症を疑う所見は確認されなかった。その後、適切な治療を受けることで症状は改善し、日常生活で不便を感じることは少なくなった。
認知症ではない疾患と間違われるケースもある。高齢者施設で暮らす89歳の矢野睦子さん。気分の落ち込み かかりつけ医にうつと診断され、薬による治療を受けていた。ところが症状に変化が現れる。突然、怒りっぽくなり、部屋を散らかすなどの行為が増えた。夜は眠れず、部屋の出入りを繰り返すようになった。上半身が大きく傾き歩くことすら難しくなった。矢野さんは改めて専門医を受診した。医師の木村さんは認知症の原因疾患の一つであるレビー小体型認知症を疑った。決め手は症状に加え幻覚の症状が出たことだった。レビー小体型認知症では後頭葉に障害が出るため幻覚が出やすい。この疾患は薬に反応しやすく、うつの薬によって症状が悪化した可能性もあった。薬の処方を変えてわずか1週間で体の傾きが治った。他の症状も落ち着き、今では施設での暮らしを満喫している。レビー小体型認知症では初期にうつ症状が出やすいこと、薬の服用で症状が複雑化していたことで診断に誤りが出たと考えられる。
認知症専門医の清水聰一郎さんは、認知症診断では脳という臓器は組織を取ることができず、物的証拠をつかむことが難しい臓器、認知症診断は状況証拠であるという。認知症診断は問診、身体検査、脳画像検査、認知機能の検査という流れ。清水さんは認知症の原因疾患は多種多様で、認知症に似た症状の病気も多くあるという。うつ症やてんかん、糖尿病、腎不全なども認知機能を低下させる原因となる。「認知症かも?」チェックリストを紹介。ふだんの生活に支障が出たら要注意となる。
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近年、アルツハイマー病の正確な診断には原因物質を可視化するPET検査が使われている。アルツハイマー病の原因物質とされているアミロイドβというタンパク質が脳にどれだけ溜まっているかを確認できる。去年、保険が適用されたが、3割負担でも費用は7万円以上。新たな検査法の研究が大分県で行われて。血液だけでアルツハイマー病を診断できる血液バイオマーカー検査。調べるのはアミロイドβとそれに似た物質。通常、どちらも脳内から血液中にわずかに排出されているが、アミロイドβは脳内で塊になりやすく、もう一方は塊になりにくい性質がある。そのため、アルツハイマー病が進行すると、アミロイドβは排出されにくくなる。そこで、血液中の2つの物質を検出することで、アルツハイマー病の可能性を推定しようというもの。研究では軽度のアルツハイマー病が疑われる約100人を検査。その結果、診断の制度はPET検査に匹敵することがわかった。アルツハイマー病の診断は簡単に素早く行えるようになると地域の医師も期待している。
アルツハイマー病の最新の検査法・血液バイオマーカー検査は簡単に早くできるもので期待されている。しかし、血液バイオマーカー検査は研究段階であり、症状が全くない方への検査は推奨されていない。バイオマーカーの検査結果を正確に読み取ることができる専門医は決して多くない、偏見が生まれてしまうかもしれない可能性があるという。アミロイドβは発症の20年前からたまるとされていて、偏見の可能性があるのだという。
大分県臼杵市で取り組んでいるのは地域での連携。認知症の適切なケアや治療に欠かせないのが、症状の変化を見逃さないこと。本人や家族、担当医だけでは変化に気づけないこともある。そこで、医療関係者の他、介護・福祉・行政などが連携して、患者を多面的・継続的にみることで症状や暮らしの変化など情報を共有するとういう取り組み。この日は9つの職種の専門家が集い認知症の疑いがある患者について今後の対応を検討した。呼吸器疾患で入院中の80代男性、1週間前から夕方になると興奮状態となり薬を拒むようになった。医師・薬剤師・地域支援推進員などが意見を出し合う。この日は薬の調整と家族への聞き取りをすることが決まった。
清水聰一郎さんは地域で認知症に取り組むことについて、素晴らしい取り組み、地方は施設が少ない課題がある一方で人々が集まって連携してチームとなって取り組むことができるとした。都市部は医療機関が多すぎて専門医にたどり着くのが遅れてしまうケースもあるという。認知症の治療ケアは多職種で行うことが必要だとした。清水さんは認知症と診断されたときに、必要以上に怖がらないでほしいという。診断されたからと言って次の日から別人になるわけではない、正しく理解して早期受診をしていただきたいと話した。
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