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日本の鉄道を研究する観光社会学者・安ウンビョル。来日して9年、研究し続けるテーマは日本人の鉄道移動とは何かというもの。鉄道は日本人にとって移動するためだけにあるのではなく、乗ること自体が何らかの経験や目的になっているのではというのがウンビョルの仮説である。鉄道ファンの乗り鉄から一般の客まで鉄道に乗る日本人を見つめ続けるウンビョル。自らも乗車し続けて見えてきたのは、日本人の不思議な鉄道愛だった。
オープニング映像が流れた。
本屋さんの棚を見れば日本人が鉄道好きなのがすぐわかるとのこと。最初に案内されたのは一般書店であった。海外で廃刊が進む中、日本では未だに何種類もの紙の時刻表が売られている。鉄道専門の書店では乗れない列車の時刻表なのに毎号2万部が発行されていた。ウンビョルは東京大学大学院に所属しており、2023年には日本でも鉄道研究の成果を博士論文としてまとめている。「モビリティーズ研究」とはグローバルな移動が行われる現代に生まれた新しい研究分野で「移動」すること自体の意味や価値を見いだすことを目的とする。研究調査のため全国をめぐるウンビョルだがこの日は埼玉にいた。向かったのは秩父鉄道の始発駅である。待ち合わせていたのは中央大学の鉄道研究会のメンバーである。ウンビョルは今回「乗り鉄」の研究旅行に同行させてもらうという。秩父鉄道は埼玉県北部を東西に横断し、普段地域住民の足として使われる私鉄である。今回はこの路線の始発駅から終着駅まで乗る、いわゆる”乗りつぶし”といわれる実態を調査するという。普段通りの行動や会話を観察させてもらうため、あえて声をかけずウンビョルは少し距離を置き聞き耳を立てていた。これは「モバイル・エスノグラフィー」と呼ばれる調査手法で調査対象が何を体験しているのか同じ環境に身を置き、一緒に行動しながら観察を行う。次から次に出てくる情報に、ウンビョルのメモも止まらなかった。また床下のモーターの音が気になる研究会メンバーは番組音声スタッフのマイクで床下のモーター音を聞いていた。出発から2時間、終着駅に到着した。ウンビョルは駅舎の調査も行うため、3人とはここでお別れとなった。ウンビョルの指導教授を務めた社会学者の吉見俊哉は彼女の研究がもたらす社会的な意義に注目する。
大学時代、交換留学で1年間日本に滞在したウンビョル。休日の楽しみは鉄道旅行だった。20年前に自分で書いた旅行記は今も大切に取っている。ウンビョルは1週間限定の周遊パスを使い、いかに沢山の列車に乗れるかに挑戦。時刻表を使って緻密な計画を立てた。ルートは東京から日本海側に出て東北を1周。さらに大阪に移動して紀伊半島・中国地方をめぐり、再び東京に戻る。30もの路線を乗り継ぐ一大旅行だった。この旅でウンビョルが最も楽しみにしたのが、特別列車である。路線ごとに独自の志向が凝らされていることに驚いたという。ウンビョルは今も研究対象として、日本の特別列車に乗り続けていた。「わたらせ渓谷鐵道」だがウンビョルの乗り込んだ車両は週末だけ走る特別列車であった。電車ではなくディーゼル機関車が客車を引っ張る昔ながらのスタイルであった。ウンビョルが陣取ったのは進行方向に向かって一番後ろの席であった。出発してまもなく、トンネルに入りイルミネーションが天井に広がった。こうした観光列車は現在日本全国に180以上あると言われ、観光地に行くのではなくこの列車に乗っていることそのものが観光なのである。日本は世界でも群を抜く観光列車大国だとウンビョルは言う。移動手段ではなく、観光として列車に乗ることが目的となる現象をウンビョルは環境目的地化と呼ぶ。観光化に必要な役者はウンビョルの研究で重要なポイントであり、上演論と呼ばれる社会学の特殊な分析方法で観光列車が解釈できるという。出発から90分、終着駅に到着した。40年前の国鉄時代、赤字路線になり廃線の話が持ち上がった足尾線。地域の象徴である鉄道がなくなることに、沿線住人は反対。自治体と協力して、特別乗車運動を展開した。わたらせ渓谷鐵道となった今も、赤字経営ではあるが沿線住民の路線移住運動は続いている。赤字でも走り続ける日本の地方鉄道を不思議に感じるウンビョル。事前に連絡を取っていたのは鉄道会社の社長であった。
高崎の大学で週に一度教鞭をとるウンビョル。日常の通勤の中でも鉄道と日本人を観察している。今も全国各地で観光列車として運行されるSL。高崎でも鉄道ファンからの強い要望で40年ほど前に復活した。不定期ながらSLが運行する駅・高崎。古き良き鉄道黄金期の記憶を大事にしているのも日本特有の文化だとウンビョルは言う。一方高崎には新幹線も乗り入れする。高速鉄道新幹線の存在もまた、日本人と鉄道の特殊な関係の現れだという。世界的に鉄道事業が衰退するといわれた1960年代。日本はその流れと逆境するように、新幹線を開発した。新幹線の成功が鉄道への信頼と鉄道文化の広がりにつながったとウンビョルは考える。鉄道と日本人の切っても切れない不思議な関係。
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- 高崎市(群馬)
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