- 出演者
- 合原明子 野澤千絵
東京都がファミリー向けの住まいとして開発したはずの晴海フラッグ。NHKの取材から法人が投資目的で購入した部屋が多数あることが分かった。都市計画の専門家のコメント。
- キーワード
- HARUMI FLAG
オープニング映像。
晴海フラッグがあるのは東京・中央区の湾岸エリア。東京オリンピックパラリンピックの選手村だった建物を主に分譲マンションに改修。スーパーなどの商業施設や小中学校も新設し将来的に1万2000人が住む街とする計画。もともとここは東京都が埋め立てて造成した公有地で、都は道路などの整備におよそ540億円の公費を投じてきた。ところが今回私たちの取材で浮かび上がったのはこの晴海フラッグが投資の対象となっている実態。ファミリー向けだったはずが多数の部屋を法人が取得。転売などが相次いでいた。
晴海フラッグに申し込みを続けてきた60代の夫婦に話を聞く。終の棲家として購入を申し込んだが、すでに7回抽選に落ちた。この夫婦は申し込みの際に配られた資料を見てある違和感を感じていた。ウェブで申し込めるのは3戸まで、4戸以上申し込むときは対面で申し込んでくれと、ファミリー向けをうたいながら複数の部屋の購入を前提にしている記載があったという。さらに申込会場で目にした光景にも疑問を抱いたという。その後、法人による投資目的の購入が相次いでいたことを知った。5年前から段階的に始まった晴海フラッグの販売。大きな変化があったのは2年ほど前。抽選の倍率が急激に上がった。複数の部屋を取得した法人を取材したところ数十戸単位で申し込んだという証言が相次いだ。中には部屋を手に入れるため一度に200戸以上申し込んだと話す法人の代表もいた。晴海フラッグで5部屋以上購入した不動産会社の代表は今、所有するすべての部屋を賃貸に出している。晴海フラッグで最も多く分譲されたのは85平米の部屋。平均価格は8000万円と周辺相場よりも安く設定されていた。そうした中、都心の新築マンションは価格が高騰。この差に目をつけた投資家たちは晴海フラッグの部屋を転売したり賃貸に出したりすることで利益を得られると見込んだ。もともと分譲マンションとして供給された2690戸のうち転売や賃貸に出されている部屋は少なくとも491、全体の2割近くに上ることが明らかになった。晴海フラッグの物件を専門に扱うようになった不動産仲介業者ではどこよりも詳しく物件の案内ができるよう社員を晴海フラッグ内に住まわせている。東京都都市整備局市街地整備部長・井川武史さんは、急激な変化等ものを見通せなかった、等と話していた。
取材を続けてきた牧野記者によると晴海フラッグでおかしなことが起きていると感じたのは去年の2月、7回目の販売が行われた時。最高倍率が266倍になる部屋も出ていた。そして、現地で取材していて投資目的で大量の部屋に申し込む投資家や法人の存在があることに気づいた。その後の販売では申し込みは1人2戸までとする制限が設けられたが、法人が投資目的で購入する状況は続いていたことは確認している。晴海フラッグで起きている何が問題かというと、この場所が東京都が巨額の交費を投じて整備した公有地であること。そして住宅を求めるファミリー層向けに整備すると当初していたこと。晴海フラックがある中央区によるとすでに引き渡された分譲マンション2690戸のうち3割以上の943部屋は未だ住民票の登録がなく居住実態が確認できていないという。明治大学教授・野澤千絵さんは、アフォーダブル住宅として期待される存在であったが、それが過度に投資対象になってしまったということで、この町に本当に住みたいという人が住めない状況になっていて、大きな機会の損失と見ているなどと話した。
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東京大会の開催が決定した2013年。この年、東京都の依頼でコンサルティング会社がある資料を作成していた。短期間で選手村を建設し、その後晴海フラッグに改修する難しい事業をどう実現するかあらゆる手法を検討していた。最終的に東京都が選択したのは民間の資金やノウハウを活用できる市街地再開発事業だった。東洋大学の大澤昭彦准教授はこの手法は参入する民間にも利点があると指摘する。当時の事情をよく知る都の元幹部は、企業に手を挙げてもらって、特に五輪までに間に合わせる、しっかり作り上げることが当時はいちばん需要だった、などと明かしていた。
晴海フラッグの販売については、どのような検討がなされたのか。今回、私たちは販売の方法について都が内部で検討した記録を情報公開請求した。しかし返ってきたのは存在しないという回答。さらに、晴海フラッグを開発した企業側にも取材したが担当者は東京都と販売方法について議論したことはないと証言。こうしたことは一般的な対応なのか、同じ臨海部を開発している千葉県の取材から意外な事実が分かった。千葉県では50年近く前から埋立地など公有地に建設した住宅が投資対象になることを防ぐルールを設けている。転売などが確認されれば企業が住宅を買い戻して売買契約を解除するという厳しい条件をつけてきた。さらに東京都もかつて港区にある公有地にマンションを開発した際、販売する企業に条件をつけていたことが分かった。16年前にこのマンションを新築で購入した50代の男性に話を聞く。申し込みの際に配られた説明書類の条件は自ら居住するため住宅を必要とする人。さらに、購入できるのは1世帯につき一住戸に限られ、法人に対しては販売しないことが明記されていた。しかし今回、晴海フラッグではこうした条件はついていなかった。
きょう東京都が示した回答。マンションを保有して販売する権利は特権者、つまり事業者にあり販売方法や価格について都市再開発法などにより施行者であるとは関与できないと回答。部屋の所有実態について調査検証する考えがあるかという問いに対しては、再開発事業の施行者である東京都は特権者の所有するマンションについて権利・義務を有していないと答えている。国土交通省の見解。明治大学教授・野澤千絵は特定建築者制度について、民間の力やノウハウを活用して、民間に建設してもらって販売も民間にやってもらうというもので、千葉県の事例と違う事業手法で、こういう回答になったと説明しつつ、都は販売方法等に対しても積極的に関与していく責務はあるのではないかと話した。