- 出演者
- 辻嘉一 高橋忠之
今日は「神饌」について特集する。10月1日に伊勢神宮で、酒を司る神に行われた神饌では16品目が奉納され、これまで知られることのなかったことを紹介していく。
- キーワード
- 伊勢神宮
三重県の志摩半島では「御食国」と呼称され神の食事処を司り、歴史をたどれば皇女「倭姫命」が天照大御神に鎮座の場所を求め、大和から伊勢に訪れ、天照大御神が「伊勢の国は、傍国の可怜国なり。この国に居らむと欲ふ。」などというほどで、この言葉を受けて社殿を五十鈴川の上流に建てたと言われている。伊勢神宮では2~3000ほどの神事が毎年行われる中、最も古く、重要視されている「神嘗祭」。約10日の日数をかけ行われ、社の数だけ神饌が供えられる。
内宮忌火屋殿は神の台所として知られている。辻さんは日本の水の良さが日本料理の基本に有り、お刺身や酢の物も水が良いおかげだと話していた。日本の食文化の原点となっている神饌は水にも火にも伝統があり、神の食事のために汲まれる水は上御井神社の湧き水が使われ、1日として絶えることなく汲まれている。火は忌火と呼ばれ、静岡・登呂遺跡のものと同じ形式の特別な火鑽道具が今も神饌調理に使われている。神宮の矢野さんは忌火に忌という文字が使われている理由について、「忌」は普通お葬式などに聞く言葉だが神宮ではケとハレのハレの最極端を意味し、一般の人も立ち入ることが出来ないほどの特別・神聖なものを意味していると紹介した。神様は忌火屋殿で作られた神饌を御饌殿にて毎日食されているのだといい、1日に3度・5時間かけて召し上がるのだという。そして、神の前では立つことは出来ないのだという。木の葉に食物を持った時代の名残からか、素焼きの時に葉をしいて盛り付ける様子も見られた。
志摩・磯部の別宮伊雑宮で行われる御田植祭。そのうちの神事である「竹取神事」は豊漁の行方を占うもので、農民や漁民、伊勢神宮との関わり合いがよく分かるとのこと。米が伝来し24~500年。そこから稲を主食とした生活が始まり、日本の生活の根幹となった。稲を使った神事はすべて「神嘗祭」に向けてのプロローグであるとのこと。収穫した米を保管する「御稲御倉」は古来のままの姿を残し、唯一神明造を使っての建立となっている。
神宮を取り巻く伊勢・志摩の海は豊饒の海と呼ばれ、神饌の中にはここから取れた魚介類があり、「御贄」とよばれる。黒潮の関係でアワビなども収穫され、良く御贄として奉納される。専用の小刀を使い、特殊な切り方をして奉納される。愛知県の篠島でも干鯛を用意し、神嘗祭に調製する塩も神饌の重要なものの1つで、伝承通りのやり方で今も続いている。
伊勢神宮には式年遷宮といって20年ごとに新しい宮を造園して神にお移りいただくという神宮最大の祭りがある。遷宮の始まりは1300年前天武天皇の御世と伝えられる。生きとし生けるもの全てが毎年新しい命を誕生させていくように遷宮は新しい宮を20年ごとに作り変えることによって永遠の蘇りを象徴したと考えられている。唯一神明造の社が常に初めのままの姿で後世に伝えられていく。そして、2500点に及ぶ神の宮の宝物装束もすべて建物と同様に新調されていく。貴重な文化の伝統が伝達可能な20年の周期で蘇りながら継承されていく。次の遷宮は9年先の昭和68年。現在すでにヒノキの用材が準備されつつある。午前8時神宮司長の朝の日課朝拝が始まる。神宮職員600名、そのうち神職は80名。祭りともなればもっとも活躍するのはディレクター役をつとめる儀式課と神饌から装束まで一切を受け持つ神職。神嘗祭の始まりを明日に控えていよいよ神職の参籠が始まる。全神職は斎館に参籠しなければならない。神職の頂点に立つ大宮司二条弼基さん74歳、少宮司の慶光院俊さんは今年81歳で実務の最高責任者。斎館は厳粛な場所だという。儀式のときに読み上げる祝詞やお祓い言葉はその度に新しいものを使う。書をよくすることも儀式課の神職の大切なつとめ。神嘗祭は豊作を感謝祈念する大祭。まず御稲御倉に収められている穂を臼どので脱穀・精米。この新米でご飯やお餅、お酒がつくられる。神宮の祭りに備えられる素材や果物はすべて直営の神宮御園で栽培されている。ブロッコリー、カリフラワー、ネーブル、セミノールなど今どの家庭でも見られる。これらは毎日差し上げる神饌にだけ使われる。しかし、神嘗祭の神饌は柿や梨、大根、れんこんなど昔からある野菜が供えられる。
内宮忌火屋殿。神宮・広報課長の矢野憲一さんは「ここには入れないので望遠カメラで撮影。いまお餅を作っている。きょうはお餅は360枚。多い日には1日500枚の調理がある。125食のお宮がある、それに全部お供えする。昔ながらの餅つき風景。お酒は4種類のお酒をお供えするがお酒はすべての食物の最後にお供えされる。昔はどぶろくが中心なので飲んでしまえば食べられなくなってしまう」などコメント。
十月十六日夜十時。昼間の喧騒がすっかり夜の静寂に消え。全てのものが闇の中に沈む夜十時。宵祭の三の太鼓が鳴り響いて神饌を差し上げる最大の儀式由貴大御饌祭が始まる。神嘗祭には社を飾る榊の枝を新しく取り替え神の衣を新調し、その年にとれた新米を神に差し上げる。このように神嘗祭を新たに装う心が20年ごとに行われる遷宮へと繋がっていく。神饌も神嘗祭の日はとくに尊いという意味で神饌辛びつと呼ばれているが夕べが夜十時、明日に至っては午前2時というまさに神の時間の神の宴。神宮の森の奥深く神の庭に松明の明かりだけが揺らめいている。その中を真っ白な祭服に身を包んだ神仕えの人たちの行列。祭祀を先頭に奥へ進む光景はこの世離れしたものがある。内宮御正殿には神への奉仕を許された神職の他は入ることを許されない。しかし、内宮には天照大神の荒御魂を祀るもう一つの宮があり、ここではお昇殿と全く同じ神饌が差し上げられる。伊勢海老、熨斗鮑、生アワビ、キスやカマスの干物など30種類の神饌。お正殿では奏でる神楽歌とともにお供えしお酒を一献、また一献とオススメする。祝詞が奏上され打ち鳴らす神職達の柏手の音が響き渡ると祭りは最高潮を迎える。
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