突然、日常を奪われ、不安と怒りが広がったアメリカ社会。当初、ABCテレビなどの大手メディアの中にはこの事態を冷静に伝えようという姿勢も見られたが、こうした報道に大統領を侮辱するのは許せないと非難の声が寄せられ視聴率も低下していく。逆にテロをきっかけに躍進したのが当時まだ歴史が浅かったフォックスニュースだった。テロ直後からキャスターたちは胸に国旗のピンを着け、愛国心を前面に出すようになる。政権に批判的な意見に対する厳しい姿勢が視聴者の支持を得るようになっていった。アメリカはテロの発生から1年あまりのちにイラク攻撃を始め、当時のフセイン体制を崩壊させる。その2年後、NHKの取材に応じたフォックスニュースの幹部は多くの視聴者を引きつけた手応えを語っていた。一方、その報道のあり方は行き過ぎていたという指摘もある。フォックスニュースでかつてコメンテーターを務め、2002年以降、出演するのをやめたジェフコーエンさんは同時多発テロに端を発した愛国主義的な報道は今のメディアのあり方にもつながっているとみている。