3月2日。猿の体力も限界に達するころだ。白山の猿が力尽きて死んでしまうのは、3月から4月はじめにかけてのことだ。食べ物を求めての行動は、今まで行かなかった遠い所にも及ぶ。13歳のメスが先頭を進み、ヤツデとヤミ・ヤマトの親子はそれに続く。普通は、木の枝伝いに移動するが、食べ物を求めての移動では、雪中行軍もいとわない。目的地は、谷川。春の嵐が谷川を覆った雪を押し流したことを知っていたのだ。猿は、ヨシの根を食べていた。緊張感が高まり、喧嘩も始まった。ヤツデは、泥を洗い落として食べていた。白山の猿では、あまり知られていない光景だ。ヨシの根に含まれているタンパク質は、2.5%で、ほとんどが繊維質だ。これでは養分にはならないが、比較的量が多いため、空腹感を満たすには好都合のようだ。ニホンザルは、子どもに母親が食べ物をとって与えるということをしない。幼くても、自分の手で自分の食べ物を得る必要がある。末っ子のヤマトが見当たらず、母親のヤツデも気にしているが、目の前の食べ物に夢中だ。