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日本経済新聞・村山恵一氏が解説。「米国遺伝子検査大手が破綻・顧客情報流出 累計1500万人の行方焦点」(日本経済新聞19面3月26日付)掲載記事紹介。村山氏は、アメリカの遺伝子検査サービス会社「23アンドミー」が3月23日にアメリカ連邦破産法第11条チャプターイレブンの適用を申請した。手軽に遺伝子検査を受けられると注目されたがサイバー攻撃による700万人の顧客情報の流出でデータ管理の体制に懸念を招き経営難に陥っていたと説明。きょうのテーマ「ヘルスケアデータ有効活用へ道半ば」。23アンドミーは創業2006年。遺伝子検査キットを販売して顧客から唾液を採取し送付、オンラインで解析結果を表示。新しいタイプのバイオテクノジー企業と脚光を浴び、アメリカ・グーグルが初期の投資家でもあった。創業者でCEOのアン・ウォジスキ氏はグーグル創業者のひとりセルゲイ・ブリン氏の元妻。ブリン氏が23アンドミーのサービスを利用して自身がパーキンソン病になるリスクが高いと公表した。当時、ブリン氏は生活を変えて発病の可能性を下げるチャンスとブログに記載。集めた遺伝子データを新しい薬の開発に役立て得るといった期待もあり2021年に会社は上場を果たして時価総額はおよそ60億ドルに達した。今回の破産の背景には製薬会社と手を組むなど検査データを活かしたビジネスモデルを摸索したが思うように進まなかった。2023年のサイバー攻撃で大量の顧客情報が流出。サービスの利用に急ブレーキをかけてしまった。遺伝子データは変更やリセットが出来ない固有のデータでありプライバシーの固まり。攻撃者にとっては利用価値が極めて高いものの一つ。イスラエルのサイバーセキュリティー会社「チェックポイント」によるとヘルスケアや医療業界の組織に対する攻撃は世界的にも増加傾向にある。盗まれたヘルスケアデータが身代金の要求に使用されたり、患者データが闇市場で取引される現状がある。23アンドミーの企業再生の課程で会社資産の所有者が変わり顧客データが移管や売却される可能性がある。カリフォルニア州の司法長官は利用者には23アンドミーにデータの削除を求める権利があるとしている。個人情報を扱う企業全体にとって一つの警鐘である。ヘルスケアデータを活かして価値を引き出す挑戦が鈍ってしまったり敬遠されてしまうのはいけない。遺伝子データ活用は個人ごとに最適な治療をする「精密医療」。欧米では遺伝情報など大規模に集めた「バイオバンク」を作り複雑な病気の診断や治療へ対応する。23アンドミーのCEOを退いたアン・ウォジスキ氏はXへの投稿で「入札を通じて経営権の再取得を目指す」としている。経営を続けられれば遺伝学のグローバルリーダーとなり世界のヘルスケアエコシステムの土台として遺伝学を確固たるものにするという長期ビジョンに献身したいとしている。個人データを適切に守り人類のために使いこなせるのかどうかデータ社会の行方にも影響する案件。