2025年4月1日放送 19:30 - 19:57 NHK総合

クローズアップ現代
被災者が訴えられる〜震災14年 訴訟300件超はなぜ〜

出演者
桑子真帆 
(オープニング)
被災者が訴えられる!? 支援の制度でなぜ

被災者が自治体から訴えられる事態が多発している。東日本大震災の被災地では生活再建のための自治体の貸付金を返済できない被災者が相次いでいる。滞納額は約67億円。今、一斉に返済期限を迎え、自治体が裁判を起こしている。被災者を救うはずの制度が、なぜ逆に追い詰めてしまうのか。その課題に迫る。

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仙台市東日本大震災災害援護資金
#4991 被災者が訴えられる 震災14年 訴訟300件超はなぜ

宮城県沿岸で東日本大震災の被害に遭った佐藤さん(仮名)。災害公営住宅で暮らし、切り詰めた生活をしている。今の収入は2か月ごとに支給される10万円ほどの年金のみ。佐藤さんは自宅と経営していた食料品店を津波で流された。国から支援金を100万円。その他、義援金20万円を支給された。さらに生活再建の資金として頼ったのが“災害援護資金”。災害援護資金は年収220万円以下など所得が低い被災者に対する公的な貸付制度。信用調査はなく、6年間は返済が猶予されるなど被災者が利用しやすいのが特徴。上限額の350万円を借り入れた佐藤さんは店舗の再建に踏み出した。しかし、急速な人口流出という厳しい現実に突き当たる。結局、店舗の再建は叶わず、借りたお金は生活費に消えた。そうした中、自治体からの催促を受け始めた。佐藤さんはアルバイトもしたが、高血圧や心臓にも持病があり、続けられなかった。今は不眠症の薬も服用している。多くの被災者が返済に苦しむ災害援護資金、返還をめぐる訴訟が多発する事態になっている。仙台市は東日本大震災の後、約233億円を貸し付けたが、滞納額は約29億7000万円にのぼっている。その回収のため、2017年から新たに部署を立ち上げ、専門業者にも回収を委託している。返済の期限は13年、これまで全く返済がない被災者に対しては訴訟を起こさざるを得ない。訴訟の数は令和3年度から大幅に増加。累計で289件にのぼっている。

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不眠症仙台市仙台(宮城)東日本大震災災害援護資金高血圧

岩手県内で最多となる228件の貸し付けを行った釜石市。債権回収を担っているのが古川由憲さん。2年ほど前から被災者に対する訪問催促を始めた。貸付金は国と県が出資。市町村を通じて被災者に貸し付けられる。被災者からの回収は市町村が担うが、回収ができなかった場合、その分を肩代わりして国と県に返済しなければならない。市町村は被災者と国の間で板挟みになっている。古川由憲さんも津波で家を流された被災者。複雑な思いを抱えながら訪問を続けている。

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災害援護資金釜石市釜石(岩手)

災害援護資金に大きな問題があることは阪神・淡路大震災の頃から指摘されてきた。約1300億円の貸し付けが行われたが、滞納する被災者が続出し、自治体は500件を超える訴訟を起こした。制度の仕組みを変えられないかと活動してきた岩田伸彦さん。被災者を連れて国へ陳情にあがり、月1000円からの少額返済の制度を認めさせた。さらにどうしても返済が立ち行かない被災者には免除も可能となった。

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しんぶん赤旗内閣府災害援護資金神戸(兵庫)阪神・淡路大震災

少額返済や免除などの制度が適用される被災者は一部に限られている。現在、免除を求めている橋本さん(仮名)。津波で家を失い、災害援護資金を350万円借り入れ、月に4万円ほどの返済が必要だった。しかし、漁師の橋本さんは記録的な不漁にみまわれ、役場と交渉して月数千円の少額返済を認めてもらった。心臓に持病がある橋本さんは今の食事では病状が悪化すると医師に指摘された。免除が認められるのは借りた人が死亡した時、重度の障害を負った時、破産や再生手続きをした時などと定められている。この日、橋本さんは免除を直接訴えるため、町役場に向かった。話し合いは2時間に及んだ。町は橋本さんの状況に照らしても今すぐに免除はできないと回答したという。

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岩泉町(岩手)災害援護資金

被災者支援に長年携わる弁護士の津久井進さんは制度そのものは本来は被災者を助けるためにある。ところが、どこかでおかしくなって、一般の民間以上に厳しい回収をする制度になっており、ここに問題があるなどと話した。阪神・淡路大震災の時に被災した兵庫県内の市町村は約1309億円を被災者に貸し付けた。多くは回収したが、回収できなかった部分もあり、最も貸し付けをした神戸市は震災から26年が経った2021年に約11億円を自ら負担した。津久井進さんは阪神・淡路大震災でも多額の公的資金が投入されたが、そのほとんどがインフラに使われた。人に対する支援が非常に薄かったなどと話した。被災者の救済措置を広げていく意向はあるかという問いに対し、内閣府は返済困難な被災者には最大限寄り添った対応が必要。免除・猶予など今ある配慮規定をきめ細かく活用することが重要だと回答した。津久井進さんはこれが東日本の被災地の自治体に伝わるようにコミュニケーションをとることが求められていると話した。

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令和6年 能登半島地震兵庫県内閣府東日本大震災災害援護資金神戸市阪神・淡路大震災
被災者支援したいのに… 立ちはだかる壁

石川・輪島市の災害援護資金の貸し付けは49件、総額約8750万円。今はまだ貸し付けから5年の返済猶予の期間。今後、市では返済に困った人から相談が寄せられた場合、社会福祉協議会の支援サービスを斡旋。家計改善の指導、就労支援などにつなげる。しかし、社会福祉協議会からは被災者の状況を早めに把握するべきだと指摘されている。市は資金を借りた人の情報について、個人情報を保護するため、社会福祉協議会にも共有できないという。社会福祉協議会では訪問活動を行っているが、資金を借りた人を見つけて支援するのは困難だという。災害援護資金の借り入れによって苦しむ人が新たに出ないため、どうすればいいのか。

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災害援護資金社会福祉協議会輪島市輪島市社会福祉協議会輪島(石川)
被災者支援のために いま必要なこと

社会福祉協議会などは支援したいが、個人情報保護法によって自治体と情報共有ができない。津久井進さんは個人情報保護法が誤解されている。本人以外のものに提供することが明らかに本人の利益になる時は個人情報を共有することが可能。個人情報を共有することの大切さについて、現場で理解を深めてほしい。一番大事なのは本人の状況を早く・正確に理解すること。財源に限りはあるが、それをどう使うかというところこそ、私たちに求められている知恵などと話した。

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個人情報保護法内閣府災害援護資金社会福祉協議会

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