- 出演者
- 桑子真帆
オープニング映像。
2025年の認知症とその予備軍の人数は高齢者の3.5人に1人になると推計されている。「認知症になると何もできなくなる」という考えや、社会的に孤立するなどの状況がいまだ残っているとして国は去年、認知症当事者の声を受けて「仲間とともに希望を持って暮らし続けることができる」という新しい認知症観を打ち出した。
愛知・岡崎市にある食堂では認知症のある高齢者を3人雇用。時給は1080円でランチタイムの3時間、接客や配膳などを担当している。接客にはマニュアルがなく、文字を書くのが苦手なようこさんは客に直接注文を書いてもらっている。この店では従業員が認知症であることを隠していない。注文を忘れたり、箸やコップの数を間違えたりすることもあるが、開店して6年大きなトラブルはほとんど起きていない。店長の市川さんは介護事業所を経営する介護福祉士でもある。市川さんは「認知症になったら何もできなくなる」というイメージを覆したいとこの店を開いたという。認知症の人が働くことは家族にとっても前向きな変化をもたらしている。認知症はアルツハイマー病などが原因で脳の機能が低下して日常生活に支障をきたす状態。そうした状況で本人が困るような環境にあるとSOSのサインとして不安やうつなどにつながることがある。しかし、人とのつながりのなかで役割があり、自分の力を発揮できる適切な環境があれば社会参加や自分らしい暮らしを続けることは十分可能。
認知症当事者の働く場をどう広げるか、企業も受け入れに乗り出している。千葉・船橋市にあるコーヒーチェーン店では地域のデイサービスに通う認知症や要介護の高齢者が働いている。介護サービスの活動の一環でスタッフが付き添っている。企業と当事者をつないだのは介護関連の社会的企業が立ち上げたマッチングの仕組み。登録した介護事業所の利用者で働きたい人がいればスタッフと一緒に店に出かけ有償ボランティアとして働く。この店では1日1時間✕10回で商品券3000円分がもらえる。企業にとっては、人手不足の中で大きな助けにもなっているという。
スタジオには認知症当事者の藤島岳彦さん、認知症の人の社会参加の現状に詳しい堀田聰子さん。認知症の人の社会参加を支える場は全国に広がっている。堀田さんは「当事者の楽しみや知恵に着目して場を開拓していくこと、ご本人たちと一緒により良い環境に調整して行くこと。周囲の方々にとっても希望や喜びになっている」などと話した。介護施設で就労している藤島さん「“何回聞いてもいいよ”と言ってくれることで働きやすいと感じる」と話した。
認知症のある人にも暮らしやすいまちを目指す福岡市では、実際に当事者の困りごとを聞きながらその声をまちづくりに生かしている。認知機能が低下した方に有効な「認知症デザイン」は福岡市の公共施設や地下鉄などに導入されている。さらに、日常生活に使う道具にも声を取り入れようとしている。市は働きたいと望む認知症当事者をオレンジ人材バンクに登録、ニーズを聞いて商品開発に生かしたいという企業と交流する場を設けている。当事者の立場から商品開発に協力するノブ子さんたっての希望を生かしてできたガスコンロは火の回りを黒に統一して炎を見えやすくし、消し忘れたら自動で消火する機能もついている。料理好きなノブ子さんだが医師から「危ないからガスは使ってはだめ」と言われていたが、実証実験を繰り返し認知症の人でも安心して使えるガスコンロが完成した。
社会にあったらいいと思うデザインについて、藤島さんは「トイレは何回か異性の方に入ってしまったことがある。はっきりした色が壁・床についているとわかりやすいと思う」と話した。堀田さんは「働くといっても有償の労働やボランティアだけでなく、誰かのためと広くとらえると暮らしの中、家の中にもできることやりたいことはたくさんある」と話した。金沢市のある総合商社では40代以上の社員は脳の健康診断が利用可能になって、専門家によるサポートで希望に応じて就労継続支援を行う取り組みを始めたという。