- 出演者
- 辻浩平 藤重博貴 酒井美帆 大庭三枝 ロバート・キャンベル
オープニング映像。
今年最後の放送は「 Voice to Voice 年末スペシャル」と題し、視聴者から寄せられた声や国際ニュースの中で聞かれた言葉とともにこの一年を振り返る。今年視聴者から寄せられた声は約7500件にのぼる。世界に衝撃を与えたトランプ関税について、「アメリカの関税は世界とアメリカの分断を進めた」(40代・会社員)、「関税を武器に巨額の投資を勝ち取ったトランプ大統領だが、『信頼関係の喪失』というばく大な代償を払っているように見える」(60代・ソフトウエアエンジニア)などの声が寄せられた。ウクライナ情勢では、支援を続けてきたアメリカとの関係にも変化が現れた。またAIによって変わる世界についての声も多く寄せられた。
今年4月、世界に衝撃が広がったトランプ関税。中でも東南アジアに対してはここ数年の貿易赤字の拡大を問題視して、当初30~40%台の高い関税率を突きつけた。36%の関税を示されたタイでは関税の引き下げを求め、アメリカ側が長年要求してきた牛肉・豚肉の輸入拡大の受け入れを提案。これに対し畜産農家が「関税の交渉カードにするな」と反発の声を上げた。交渉の結果、関税率は19%に引き下げられた。しかし8か月ぶりに畜産農家を訪ねてみると、懸念は全く解消されていなかった。家族経営で400頭の牛を育てているアカワットさんは生き残りをかけ、地元の企業や行政と協力し新たな加工食品の開発に乗り出した。
トランプ政権による影響は、経済だけではない。85万人の難民たちが暮らすケニアでは、トランプ政権が就任直後にUSAID(アメリカ国際開発庁)の対外援助事業の停止に着手し、人道支援に大きな影響が出ている。北西部カクマにある難民キャンプでは、武力衝突や干ばつのため隣国の南スーダンやソマリアから人々が逃れてきている。キャンプ内で食料を保管するWFP(世界食糧計画)の倉庫のいくつかは空に近い状態だった。ケニアではWFPの活動資金の約7割がアメリカの援助に頼っていた。USAIDが活動を停止したことで大きなダメージを受けたという。さらに資金不足で壊れた設備を修理できず、給水が止まっている地区もあった。現地で給水事業の活動を行っているNGOは、運営資金が4割減ったと窮状を訴えた。
視聴者から「2025年の国際情勢を振り返る際に、トランプ大統領を思い浮かべない人はいない。よくも悪くも従来の価値観が揺さぶられた1年」という声が寄せられた。神奈川大学・大庭三枝教授は「特に冷戦後に世界を支えてきたリベラル国際秩序が揺らいでいる。国際法や国際制度を重視する国際協調主義、自由で開かれた経済システムを重要視する、人権や民主主義を普遍的価値とみなすことの3つが柱になっていた。これを否定することをアメリカがトランプ政権の下で行った年だった。今後キーになるのは日本を含むミドルパワーの国々の動きで、大国ではない国々がどのように行動するかが今後の秩序のあり方を決定付けると考えている」などと語った。早稲田大学のロバート・キャンベル特命教授は「アメリカの司法も議会も、大統領に物申す意思も能力も手放したかに見える。権限が1人に集中しすぎるが故に、法によって定められている手続きや手順がないがしろにされている。アメリカにこれまで多くの富をもたらしてきた多様性の尊重が、一夜にして崩れた」などと語った。
トランプ大統領就任後に変化が生まれたのがウクライナとガザ地区の情勢。8月、軍事侵攻後、初めてとなる対面での米ロ首脳会談がアラスカで行われた。その後、ウクライナとロシアはそれぞれアメリカと協議を続けている。ゼレンスキー大統領がアメリカ側とまとめた20項目の和平案について、ロシア側は変更を求める方針と伝えられ和平の進展は今も見通せない状況。ロバートキャンベルさんは侵攻開始後、ウクライナを2回訪れている。訪問のきっかけとなったのは戦時下に生きる人たちの「ことば」との出会い。親交開始後、ウクライナの詩人がつづった「戦争語彙集」。ロシアの攻撃から逃げ惑う人々の言葉が記されている。「沈黙」これほど多くの沈黙する子どもたちと動物が1つの場所にいるところを私は見たことがない。「バスタブ」近所シェルターがないからバスタブにすがるしかなかった。こうした市民の「ことば」を追体験したいと訪れたウクライナ。8月の訪問では芸術活動を続ける人々など50人以上の声に耳を傾けた。ウクライナの詩人は戦争によって「文化」という「ことば」の重みが増したと指摘。詩人のセルヒー・ジャダン氏は文化というのはコンサートや本だけでなく世界や自分たちがどう感じているのかを示すもの。ロシアとの戦争はウクライナのアイデンティティーをかけた戦いなのですと述べる。
キャンベルさんは現地の状況などについて「全面戦争が始まると沈黙ということが支配的だった」、「戦争が生活になっている。生活と戦争の切れ目がほとんどない」、「言葉というものが人々を守るものに転換しているということを感じた」、戦時下の文化・アートについて「アートリハビリテーションというものが非常に盛んに先端的に行われている」などとコメントした。VTRの中で詩人が「ウクライナの戦争はアイデンティティを守る戦い」と述べた。キャンベルさんは「戦争は領土を狙ったものではなくウクライナ人の文化そのものをあるかないかを競うもの。領土とは異なる切実さを感じる」などと指摘した。
視聴者からの声「トランプ政権は世界を力の論理一辺倒で理解し大国と世界を分割支配していこうとしているように見える」を紹介した。大庭さんはウクライナの今のおかれた状況について「ウクライナへのロシアの侵攻というのは常任理事国であるロシアが力でもって隣国に侵攻したということで許しがたい。アイデンティティを守るというウクライナの方々の思いを踏みにじるということなんだろうと思う」、「トランプが何をしたいのかということはよく分からない」、「明らかに戦争は長期化している。かなりの揺れがあるんじゃないかと思う」などとコメントした。
ガザ地区について。2年前の10月7日にハマスによって行われた奇襲攻撃では約1,200人が殺害され、250人余が人質となった。その後イスラエルはハマスの壊滅と人質の解放を掲げて軍事作戦を開始した。8月にはガザ地で飢きんが発生するなどした。10月、トランプ大統領が主導する形で停戦合意が発効された。ただガザ地区での死者は7万人を超えている。番組では毎月ガザ地区の状況をガザ事務所カメラマンとしてサラーム・アブタホンが伝えてきた。
日本全国から17歳~70代の11人が集まった。視聴者の質問に直接サラームカメラマンが答えた。高校教師の男性の質問「人間同士の助け合いなどのエピソードを知りたい」について、サラームカメラマンは「食べ物や飲み物、宿泊場所やテントを分け合ってきた。一番つらかったのは世界の反応。世界は助けてはくれなかった」などと答えた。高校1年の女性は「見て見ぬふりがいじめと同じ状況」などとコメントした。
ガザの子どもたちに関する質問が多く寄せられた。大学院生の女性は「停戦合意後子どもたちはどんなヒビを過ごしているのか」と質問をした。サラームカメラマンは「子どもたちの現実はとても過酷です。乳児や子どもたちを守るための暖房もない」、「教育も医療もなく未来さえ見えない」などと述べた。
中東で勤務経験があるエンジニアの男性は「家族などを失った子どもたちが憎悪や貧困の負の連鎖ではマスなどに参加してしまう状況は?」と質問。サラームカメラマンは「ハマスはなぜ生まれたのか、私の答えはイスラエルにパレスチナ人が殺され憎しみに満ちた扱いを受けてきたことが原因。子どもたちは学び成長し発展することで“復しゅうする”という道もある」などと答えた。辻は空爆で親を亡くした子どもたちをハマスが集めラジオ番組でイスラエルが憎いという憎悪を煽りリクルーティングにつなげる光景を目の当たりにしたという。
高校2年製の西村さんは自分はこんなに幸せに暮らしていていいのか、私たちに出来ることはないかと質問を投げかけた。これは私のメッセージ。日本の皆さん、そして世界中の人々へどうかいつも平和で安全な生活を送ってください。イスラエルとアメリカに対してすべての人が納得できる長く続く解決策を見つけるよう働きかけるべき。殺し合いや破壊ではなく対話の道を選び前に進んでほしいと述べる。対話、歩み寄りとかは言うのは簡単だがすごく難しいこと。対立、分断された世界をどうすれば乗り越えていけるのか、ずっと考えながら取材にしてきた。今もそれを考え続けている。キリスト教はユダヤ教と歴史的なつながりが深いため、イスラエル側の考えも理解できるという。牧師でもある佐藤さんは、ユダヤ民族の悲惨な歴史というのがひしひしと自分でも感じられる。私たちからみればなんで?だけれども彼らにしてみればちゃんと理屈が通っている。その理屈でもって生身の人間が生きている。人間をどこまで想像できるかだと思うなどと話した。
皆さんの声を紹介。50代教育関係者は出来事が起きるときはごく限られた地域だが瞬く間に広がり誰もが無関係ではいられない時代である。70代の方は現在の世界の混とんは人間の持つ本質的な善良性を問いただす絶好の機会だと捉えたいなどの声が寄せられた。
アメリカのタイム誌が選んだ「ことしの人」はAI=人工知能の設計者たち。選考理由はAIが世界を大きく変えた。「Voice to Voice」の初回テーマも生成AI。この1年、AIの進化と課題を繰り返し伝えてきた。中国でな具身知能が流行語にランクイン。一方でディープフェイクや権利の保護など課題も。AIとどう向き合うのかいま私たちは問われている。声優の梶裕貴さんは自分たち人間を尊重しつつAIとつきあっていけるのかに焦点をあてるのが大事と述べた。
抗議の声を挙げる若者たちの動きが世界各地に広がった。発端となったのはバングラデシュで起きたデモ。公務員採用の特別枠に反発した学生らによる抗議でも当時の首相が国外へ逃亡する事態となった。今年に入ってからはネパールで政府がSNSを使えなくする措置をとったことで大規模なデモが起きた。インドネシア、モロッコ、マダガスカルなどでも政府に対する怒りの声をあげる動きが相次いだ。抗議の声を中心となったのがZ世代。今も様々な形で声をあげ続けている。
フィリピンのマニラで起きた洪水対策をめぐる汚職に抗議するデモ、参加した若者たちは今どうしているのか?デモ現場では歌が生まれていた。歌っているのはラップグループのMorobeats。洪水対策事業に使われるべき資金が政治家や業者に着服されたという市民の怒りが歌に込められている。ラッパーの一人・Dizzy Dことダニエル・カダイさんは抑圧されて苦しむ1人1人の声。あなたは1人じゃないと伝えるため歌を作り続ける。カダイさん自身も洪水の影響を受けてきた。おととしまでカダイさんが住んでいた家はいま叔母の家族が住んでいる。子どもの頃から毎年のように洪水に見舞われ、1階は完全に水没。木の板を渡って生活しないといけない。カダイさんも心配し時々叔母に電話しているという。カダイさんは活動家たちがすることは意味がないと思っていた。自分がデモの一員になったとき彼らが闘う意味を理解できるようになったと述べる。
学生たちの力で社会を変えたいと模索を続ける人もいる。国内およそ300の学生団体を束ねる組織の事務局長、マシュー・シルベリオさんは最も多くの学生にデモに参加してもらい、一人ひとりにリーダーとしての自覚を持つことが必要だと訴えている。マシュー・シルベリオさんは政治が激動する時期に団結することが重要だ。より多くの若いリーダーを動かす必要があると述べる。自分たちの力で現状を変えたいと若者の熱気が高まるフィリピン、先月行われた大規模なデモ。その舞台にカダイさんの姿があった。カダイさんはこの現実が続くかぎり私たちは内なる怒りをあらわにする音楽を作り続けると述べた。
皆さんの声を紹介。30代ライターはZ世代はデジタルツールを駆使して瞬時に大規模動員を可能に。既存の政治家が無視できないコストを突きつけている。神奈川大学教授の大庭さんは、Z世代に限らずデジタルツールがいろんな意味で彼らの声をあげるツールとして機能している。フィリピンにしてもインドネシアにしても政治を代々牛耳るような国、民主化していても牛耳るような特権的な存在、一族が地方政界にも中央政界にもいる。汚職を中心とした自分たちの利益のための動きがある。それがデジタルツールによって可視化された。多くの人に拡散する力もある。そういう意味では攻め手にとってデジタルツールは有効だが、他方で権力者側もデジタルツールを使って何とか封じ込めようとすることもできる。諸刃の剣であると考えている。ロバートキャンベルさんはその通り。権力を握った側の腐敗、汚職の抗いとしてデジタルツールの使い方は共感すべきこと。ウクライナの話に戻すと、若いラッパーらがロシアに有利だ、ロシアの理屈が正しいということをポップな形にして出している。希望もあるが警戒しないといけない、把握しないといけないところもあるなどと話した。
中国の自動車メーカーの工場。真っ暗だが、フル稼働中。「ダークファクトリー」と呼ばれ明かりも暖房もない。あらゆる工程が自動化されAI制御のもと900台近いロボットが働き続けるまるでSFの世界だ。人間は異常があった時に備え別の部屋で監視している。ただ最終チェックをするのはロボットではなく人間が行う。
