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乗客106人が死亡したJR福知山線脱線衝突事故。安全への道標を求め続けた遺族の19年の記録。
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淺野さんの呼びかけで実現した遺族とJR西日本の共同検証。課題検討会はその後、安全フォローアップ会議へと続き、専門家も交えて再発防止のための安全対策をまとめた。被害者と加害企業の枠を越えた異例の取り組みだった。月に1回の話し合いを3年余続けた淺野さん。長女の充智さんは「たくさんの人がボロボロになったのを見て、JR西日本がこれだけの事故を起こしたことを無駄には絶対にされたくないという思いが父にはあった。意味のあることに変えてほしいという、そうすれば少しは納得できる気がします」と話した。
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事故の翌年、社長に就任した山崎正夫氏は子会社から急遽呼び戻された。去年、JRを離れた山崎氏。14年前、遺族との共同検証という異例の取り組みに道筋をつけたのは山崎氏だった。完成した安全フォローアップ会議の報告書。運転士の速度超過の背景には複数のリスクが存在し、事故は連鎖して起きたことが記されている。運転士への懲罰的な教育、営利主義に基づく過密なダイヤ、技術的な不備。JR西日本に必要なのは企業風土の抜本的な改革だと提言した。しかし、福知山線事故の後もなくならない現場職員と経営層の間の壁、各部門の縦割りによる連携不足。山崎氏は志半ばで社長を辞任したためやり残した思いがあるという。
2023年夏、淺野さんは台湾へ向かった。台湾では2018年と2021年に大きな鉄道事故が2件起きている。淺野さんを招いたのは台湾政府の交通大臣。台湾鉄道の起業化を前に安全への取り組みについて教えてほしいという依頼だった。3年前に起きたタロコ号脱線事故の遺族代表の陳さんは、家族6人でタロコ号に乗っていて妹と4歳の娘を亡くした。台湾鉄道は事故について、工事業者がルールを破り休日に作業をしたのと、現場では過去にも2回事故があったが問題を解決していなかったことなど4つの原因を挙げている。しかし、それがなぜ起きたのかはずっと説明されていない。台湾鉄道の姿はかつてのJR西日本に重なった。福知山線脱線衝突事故から19年。当時63歳だった淺野さんは82歳になった。
今年春、JR西日本に入社した新入社員は867人。社員役2万5000人のうち、福知山線事故後に入った社員は68%。今年2月、淺野さんはJR西日本で若手社員11人との意見交換会を行った。鉄道の安全を脅かすリスクを排除する不断の努力が大切だと訴えた。山崎元社長は今も遺族への弔問を続けている。淺野さんの19年、妻への心からの弔いはまだ道半ば。
「NNNドキュメント」の次回予告。