アカデミー賞で7部門を受賞した映画「オッペンハイマー」。先月、日本でも公開されたが、広島や長崎の被害が描かれていないことに疑問の声も上がった。アメリカで原爆投下はどう認識されているのか。映画の大ヒットから見えるアメリカの原爆観を考える。原爆開発者の人生を描き、伝記映画として最大規模の興行収入を記録した映画「オッペンハイマー」。公開後、原爆実験の舞台・トリニティサイトには観光客が殺到するなど、アメリカ国内で大きな反響があった。広島出身で、20年にわたりアメリカの学生たちに原爆や核の問題について教えてきた宮本ゆきさん。映画を見た印象について「記録映像とかもあるのに、なぜオッペンハイマーが想像する被爆者の姿を見させられているのだろうという感じ。被害者が可視化されることがないというところは残念。アメリカの原爆観、被害者が出ていないところが端的かなという感じはする。大多数は『米国の兵士の命を救った』という回答がすごく多い、それは神話なんですけど、50万人100万人と言われたりもします」などと述べた。終戦直後、世論調査で国民の85%が原爆投下を支持したアメリカ。原爆が戦争を終わらせ多くの命を救ったという考え方は、その後も退役軍人などによって語り継がれてきた。その一人、ノリス・ジャーニガンさん98歳。広島へ原爆を投下した部隊の諜報部に所属。原爆投下は正しかったのか、考えを聞くと「本当に恐ろしい兵器だということには同意せざるを得ません。しかし私は同時に恐ろしいことだが必要なことだったとも感じています。多くの人から“あなたがしてくれたことに感謝しています”と言われました。終戦になり侵攻する必要がなくなったからです」と、変わらない原爆神話を語るジャーニガンさん。一方で、映画「オッペンハイマー」を鑑賞した際、気になる場面があったという。原爆投下を巡り、苦悩するオッペンハイマーの姿。原爆神話とは異なる負の側面を伝えた映画。アメリカで議論を巻き起こすきっかけになっている。SNSの投稿では、「その原爆で22万6000人もの命が奪われ、ほとんどが一般市民だった」「包囲すれば戦争は終わっていた」「彼らは原爆を試したかっただけ」。4年前に行われた世論調査では、18歳~34歳に限ると4割以上が「原爆投下は正しくなかった」と回答。宮本さんは、アメリカの若い世代の印象について「若くて祖父母も第二次世界大戦を知らない世代だったりするので、自分のことじゃないという気持ちはすごくある。わりと客観的に昔よりは見れる」と述べた。こうしたアメリカ国内の意識を知ることは、広島から被爆の実相を伝えるうえでも重要だと指摘する。「こっちの人もアメリカでどう原爆が描かれているかは学ぶべきだと思います。広島・長崎がどういうふうにアメリカで教えられているか、あるいは教えられていないかというのを知ることで、どういうことをどういうふうに発信していけばいいのか、そういう戦略は必要」と述べた。