Mr.サンデー “絶対王者”コシヒカリの牙城崩す… “奇跡のコメ”「ゆうだい21」開発物語
コシヒカリを超えるかもしれないコメ「ゆうだい21」の品種登録にこぎつけた前田。ところが、本当の困難はその育て方にあった。秋になると稲が倒れてしまい、太陽光が十分に届かないことから、くず米ばかりになってしまう。原因は田んぼの奥深くに溜まったコシヒカリ用の肥料だった。コシヒカリに比べて深く垂直方向にも根を伸ばすゆうだい21は、前の年に栽培していたコシヒカリが吸い残した肥料を取り込み、必要以上に背丈を伸ばしてしまう。「ゆうだい21」生産農家の赤羽啓一は「本当にくずが多かった」などと話した。くず米の販売価格は通常の1/3。農家が次々と生産を止めていく状況に悔しさを感じていたのが森島規仁。前田名誉教授の一番弟子を自認する森島は卒業後も職員として大学に残り、ゆうだい21の普及に尽力。実家の田んぼで肥料の与え方などを研究してきた。前田もすでに大学を退職し、森島は「自分が諦めたら、ゆうだい21っていう品種の火が消えちゃうかなと思った」と話す。倒さないで作る技術を持っている農家では、稲の葉が硬くなっていた。そんな農家こそが赤羽だった。茎を丈夫にする肥料「ケイ酸加里」を与えると茎が丈夫になったという。ほぼ全ての稲で丸々太ったコメの収穫に成功した。
森島は農家に配布する栽培マニュアルを完成させた。ゆうだい21の普及事業が軌道に乗りかけた2016年、森島規仁は父を亡くし、実家の農業を継がねばならなくなった。大学に残りゆうだい21の仕事を続けるか、実家の農業を継ぐか。生前、父は「農家を継ぐな」と言い、父への弔問で前田は「お前は家を継げよ」と言った。森島は「どっちも本心ではなかったんじゃないか」などと話した。ゆうだいも諦めず、家の農園も諦めないでやり遂げようと思ったという。学会で言われた「どこの馬の骨かも分からないコメが本当にものになるのか」という言葉も原動力になった。米・食味分析鑑定コンクール国際大会で金賞の獲得は、これまでほぼコシヒカリと決まっていた。2023年、ゆうだい21は10個の金賞を獲得、大会史上初めてコシヒカリを上回った。宇都宮大学の前田忠信名誉教授は「ゆうだい21は実におおらか」などと話した。猛暑が続くとコシヒカリは成長に障害が出るが、ゆうだい21は異常な暑さにも強い。