- 出演者
- 桑子真帆 白井千晶
卵子提供は子どもを望む夫婦と卵子を提供する主に20代の女性のドナーの間で行われる。仲介するのがエージェントと呼ばれる民間業者。治療は不妊治療クリニックで行われる。まずドナーの女性から卵子を採取、夫の精子を受精させてできた受精卵を妻の子宮に移植。妻の年齢が高くても卵子が若いため出産に至りやすいとされている。日本では法律で禁止されてはいないが実施するためのルールも整備されておらず実質的に“国内ではできない”という認識が定着してきたがなぜ今国内で広がり始めているのかその実態を取材した。3年前国内で卵子提供を受けた女性は10年近く不妊治療に1000万円程を費やしてきたが自分の卵子では妊娠には至らなかった。40代半ばで特別養子縁組を考えたが断念した。最期の手段として海外での卵子提供を検討したがコロナ禍で渡航できず日本国内での卵子提供を提示された。エージェントを通じて20代の日本人女性から卵子提供を受け妊娠し女の子を出産した。国内での卵子提供の全体像は誰も把握していない。複数のエージェントを取材するとコロナ禍以降少なくとも340人が卵子提供で妊娠していたことが分かった。エージェントは負担が大きい海外より国内での卵子提供が現実的な選択肢になりつつあると感じているという。昨年度全国調査を行った池田智明医師によると26%が妊娠高血圧症候群を発症していて一般的な高齢出産の2倍以上高い割合。リスクを把握し管理する必要があるがルールがない現状では難しいという。卵子ドナーの実態も知られていない。7年前にドナーになった会社員の甲斐なつきさんは身体的な負担は思った以上に大きかったと言います。卵子を一度に数十個採取するため2週間毎日注射を打ち続け、副作用で腹水がたまった。補償は70万円程。これまで海外で6回、国内で3回卵子を提供してきた甲斐さんは子どものを望む夫婦に喜んでもらえることが最大の理由だと話した。一方こちらの女性は注射を打ったあと腹部に痛みを感じたが一人で不安を抱えるしかなかったという。その後自身も2人の子どもを出産したことで卵子提供の現状への疑問が深まっている。「生物学的な親権はないけどきょうだいがいることについてどう思うかを提供した当時は考えていなかった。社会的にどういう影響のあることかを考えるきっかけがないまま卵子提供プログラムに臨むことになっていた」などと話した。
卵子提供のルールがないことでの問題は身体的リスク・情報共有できない・精神的負担の3つ。ドナーは身体的になにかあっても相談する先がない。出産側もセカンドオピニオンを得たり相談する先が限られている。患者は口止めされていて情報共有ができない、クリニック同士やエージェントも情報共有がしにくい。ドナー、親になる人、子どもにとっても一生続くことで精神的負担は大きい。当事者である3者に法制度がないことでしわ寄せがいっている。日本では2003年に国の審議会が「一定の範囲で容認する」としたが同時に「必要な制度の法整備が行われるまでは実施されるべきではない」とした。当時携わった専門家は今の状況は想定外だと話した。卵子提供を行っている医療機関は自分たちが何か処分を受ける可能性があるかもしれないと考えていて慎重にならざるを得ないと話している。いま超党派の議員連盟が法律作りを進めていて今国会での提出を目指している。
2007年に卵子提供の法律を整備した台湾。公に認められたことで安心感があると日本など海外からも提供を受ける夫婦が相次いでいる。背景にはかつて若い女性が自らの卵子を高額で取引するなど社会問題化したことがある。重視したのが商業化を引き起こさないための仕組み作り。台湾ではエージェントは存在せず全て医療機関が主体となって行う。ドナーに支払われる補償の上限を約46万円に設定。夫婦に伝えられる情報は血液型や人種などに限られている。当事者同士が知らないうちに近親婚が起きてしまうリスクを防ごうとドナーの卵子提供は生涯一度限りと定めた。しかしそのことで卵子不足という思わぬ問題を引き起こしていて最低1年以上待たないといけないケースも。さらに卵子提供で生まれてくる子どもの福祉を巡る問題も。卵子提供での出産に年齢制限がなく半数を45歳以上が占めている。卵子提供を受ける52歳の女性は子どもに夫と私の最期を看取ってもらいたいと話した。専門家からは子どもの目線を取り入れた法改正が必要だという声も上がっている。
静岡大学の白井千晶さんは子どもの福祉を前提にシステムを考える必要がある、国連の子どもの権利条約でもいっているが出自を知る権利がある、卵子提供を禁止するという選択をする国もある、法整備をすることで当事者の権利や支援があることが大事だが「もっと頑張れば産める」という圧力ではなく子どもを持つ持たないなど全体的な位置づけの中で卵子提供が考えられていくべきだと話した。