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エッシャー作のだまし絵の建物の謎を市川紗椰が巡る。
オープニング映像。
長崎県佐世保市にあるハウステンボス。オランダの町並みを再現した日本最大級のテーマパーク。デン・ハーグにあるハウステンボス宮殿を忠実に再現したハウステンボス美術館がある。今日の一枚はマウリッツ・エッシャー作の物見の塔。絵画ではなくリトグラフ。グランドフロアには階段へと進む男女と椅子に座る男。檻のような窓から顔を出す囚人のような人物が。2階ははしごを登ろうとする男と背を向けて奥の景色を眺める男。上にははしごから3階に入ろうとする男、前を向いて景色を眺める女。国立遺伝学研究所の近藤滋さんは趣味で始めたエッシャー研究が講じて、物見の塔が自然見えるトリックを解明した。今回は近藤さんが見破った不可能建築が可能に見える謎を解説してもらう。
近藤さんがエッシャーの物見の塔を自然にみえる謎のトリックを暴く。キーとなるのが1階と3階。模型を使って実際にどうなっているのかを検証。実際に一階と三階を建ててみるとねじれていることがわかり、これが実現不可能な建築に。しかし絵で自然に見えるのは、人間の脳は平面の絵を立体に感じ取る能力がある。この図形では縦線と横線が交わる2カ所でどちらが手前にあると感じるかによって立体のイメージが変化する。前後のパターンは全部で4種あり、そのうち2つが立体で実現可能なもの。残りの2つは立体で実現不可能なもの。そして、物見の塔では3階部分がパターン1。1階部分がパターン2。2階部分にパターン3が。2階の柱を調べてみると、交差する2つの点ではどちらも縦線の柱が前にきている。実現不可能なパターン3の図形。エッシャーは実現不可能な図形を実現可能な立体の間にさり気なくおいた。
マウリッツ・エッシャーは1898年にオランダ北部の街のレーワルデンに生まれている。21歳の時に装飾美術学校のグラフィック・アート学科で版画を始めた。そこから生涯版画家であることが誇りだった。学生時代のエッシャーの自画像「椅子に座っている自画像」は低い視点からの構図は、すでに類稀なる才能を疑わせている。平地の多いオランダを離れ、イタリアを旅行するようになると、起伏にとんだ地形に興奮するかのように、風景画に没頭。その正確で緻密な描写が特徴で、スペインのアルハンブラ宮殿でみた、モザイクタイルに衝撃をうけた。同じ模様で平面を埋め尽くす正則分割にエッシャーは夢中になり、無限や極限、循環と言った高度な数学を視覚的に美しく表現した。正則分割は鳥の作品でも。白い鳥と黒い鳥が左右に飛んでいく昼と夜という作品は生涯で最も評判になった作品。エッシャーはこうして鑑賞者の目を驚かせたが美術界の評価にはほとんど興味を示さなかったが自らの表現を追求していった。
近藤さんはエッシャーの視点がどこにあるかを探してほしいとしたが、2階の床と3階の天井が同時に見えているのが特徴で、その2つが交わる所がエッシャーの視点。通常被写体に近いほど遠近感が強調され、大きさの違いが極端に。そこで近藤さんの模型を参考にしてエッシャーのトリックが使用されていない物見の塔を作成したがエッシャーの物見の塔の方が自然に見える。3階左奥の柱が短すぎると感じたエッシャーは、屋根を高くして違和感を緩和させている。また一階の左側が手前に突き出し過ぎていると感じたエッシャーは、階段とテラスを作り、床を底上げ。これにより、画面左が手前に突き出している感じが消えた。エッシャーは物見の塔で、2階に立体では実現不可能を置くために視点を建物に近い位置に設定。そのことで強調される遠近法による違和感を屋根の増築や、床の底上げなどのテクニックを利用して、徹底的に排除した。
エッシャー作の視覚トリックな作品を紹介。上と下は下から見上げている構図かとおもいきや、いつの間にか上から見下ろしている。この作品を解説するために、近藤さんがつくった模型では、人間の視野では建物に入ると、部屋全体は見えない。魚眼レンズを使うと柱が丸く歪むが、天井も床もみえるように。エッシャーは、魚眼レンズのような歪み方という法則に従って、下空見上げた時の眺めと、上から見おろした時の眺めを違和感なく一つにすることで不思議な作品を生み出した。双曲線遠近法という。ペンローズの階段という錯視図形のトリックに従って描いたのが上昇と下降。自然に見れるが階段が無限のループになっている。ペンローズの三角形を用いたのは水が永久に同じ場所で流れ続ける「滝」。
物見の塔では登場人物がいるが、その最初の役割は自然に見える建築に違和感があることに気づかず、手ががりになっている。同じ大きさの模型を物見の塔に配置すると、遠近法の効果で手前の人物は大きく、奥の人は小さくなる。しかし物見の塔では遠近法を無視して人物は同じ大きさに。一階の男が指差す先にいる囚人。実際、その彼のいる部屋の大きさには違和感がでる。違和感に気づくための登場人物が、いつのまにか目を騙す装置になっている。
最後にエッシャーの残した言葉を紹介。市川紗椰は今日の感想に物理の法則や辻褄合わせで描いていたことがわかり唯一無二と感じたと述べた。
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