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オープニング映像。
名古屋から近鉄特急でおよそ2時間、終着駅の賢島駅へ。賢島は英虞湾に浮かぶ島の中で最も面積が大きい島。その高台に建つのが志摩観光ホテル ザ クラシック。竣工は昭和44年で、地上6階地下3階の鉄筋コンクリート造。ひさしが建物のアクセントになって建物に程よい陰影をもたらす。
志摩観光ホテルは2016年に改装されているが竣工当時の様式が大切に残されている。天井は大和張りという村野藤吾が好んだ」数寄屋造り風の古い建築技法。ロビーに置かれているイスやテーブルの落ち着きのある質素な作り。ホテルの調度品も村野藤吾がデザイン。その真髄は6階のロイヤルスイート。G7志摩サミットでオバマ大統領が滞在した部屋だという。家具や内装のデザインは村野藤吾が施し、その特徴は、優美な曲線のやわらかさ。使う人に優しくこそが村野の思い。
村野藤吾は63歳にして、世界平和記念聖堂を。72歳で日生劇場などを手掛けた戦後を代表する建築家。明治24年に佐賀県東松浦郡美津島村に生まれ、早稲田大学で建築を学び、27歳で卒業した。その後建築家の渡辺節の建築事務所に入所。村野はその後大衆に寄り添った独自の作品を生み出していく。
明治時代に伊勢志摩は真珠養殖発祥の地として知られていた。戦後この地に良質な真珠を求めて進駐軍将兵やその家族などが多く訪れるようになると、ホテル建設が早急の課題に。しかし戦後の物資不足が課題に。そこで三重県鈴鹿市にあった海軍将校倶楽部という戦時中に建設された建物を移築しホテルの一部に再利用することに。海軍将校倶楽部を設計した人物こそ、村野藤吾だった。同じ建築家がいいと依頼されたという。当時の賢島は辺境の地で、視察におもむいた村野はその場所にホテルの建設をすることを不安視していた。昭和25年にホテル建設が始まると、水不足の問題や、台風被害などの困難に直面した。それでも翌年の4月に志摩観光ホテルは客室数2室の準様式ホテルとして、何度か開業にこぎつけた。この時村野は60歳。いまも、その建物の一部が残されている。村野の建築哲学の「99%を聞き1%に託す」とは、設計の99%はクライアントのために。残りの1%は自分にしかできない独自の表現を行うということ。
志摩観光ホテルの階段はおおらかでゆったりとしている。その村野の1%はさり気ない。さらに、階段のは幅を大きくとりつつ、蹴上の高さをおさえることで、上り下りする際のゆとりと安心をもたらしている。2階はかつての食事処があり、現在はカフェ&ワインバーとして使用されている。白壁には日本の伝統的なデザインが施されている。照明はペンダントライトに竹をあしらった和を取り入れたデザイン。村野は和と洋を絶妙に融合させた独特の建築様式で設えた。太く大きな柱や梁は、元々海軍将校倶楽部で使われていた威厳の象徴とも言える。しかし移築建築の際にこれらの素材が無惨にも、野ざらしになっていた。そのため村野は再び役割を与えた。志摩観光ホテルは昭和45年の、日本万国博覧会にあわせて新たに増築を計画。総和44年には客室数200を超える新館に。この時村野は78歳。
作家の山崎豊子は昭和30年に志摩観光ホテルに初来館以来、半世紀に渡り、代表作の冒頭部分をこのホテルで執筆。得に、華麗なる一族は、まさにこのホテルが舞台。書き出しの1行は志摩観光ホテルそのもの。山崎豊子が愛した英虞湾の夕陽。
志摩観光ホテルのメインダイニングルームは、最大230席のダイニングルームにも、村野の気づかない仕掛けがある。天井部分に目をやれば、同じ平面でも窓側の天井を微妙に低くしている。こうすることで、無理無く客の意識が風景と寄り添うようになる。
志摩観光ホテルの総料理長の樋口宏江さんはホテル初の総料理長として料理界の数々ある権威の賞を受賞。2016年にG7 伊勢志摩サミットでは、ワーキングディナーを担当。その際に提供したのは伊勢海老クリームスープ各国首脳がこのスープの美味しさに感嘆し会議がしばし中断したという。この料理を考案したのが伝説のシェフの5代面総料理長の高橋忠之さん。地元でとれる伊勢海老を使ったクリームスープの他にオリジナルメニューも開発させた。さらに世界のVIPを唸らせたアワビのステーキはこんがりと焼き上げたあわびに、まとわせるのは焦がしバターソース。村野藤吾の1%はこのホテルの全ての人々に受け継がれているという。さらに田畑務さんは施設管理を担当し、レストランのイスを修復していた。田畑さんは40年以上ホテル内のイスの修復を任されている。
志摩観光ホテル ザ クラシックの地下2階に、村野藤吾が92歳の時に手掛けた広間がある。真珠の間は、天井の照明はアコヤガイをイメージし、そのアコヤガイが生み出した真珠が絨毯となって敷き詰められている。伊勢志摩という場所のオマージュとして。この翌年に村野は兵庫県宝塚市の自宅で急逝した。93歳まで現役を続けていたという。
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