端島炭坑閉山のニュースを新聞で知った東京電機大学名誉教授の阿久井喜孝先生。閉山後まもなく実測調査のため、学生や関係者など十数名と上陸した。島内の建物には生活のニオイがまだ残り、居住区に入る時は靴を脱いで入ったそう。そこはまるで少しだけ留守にしているような印象だったそう。阿久井先生たちの調査は10年以上に及んだ。計測を基に作られた軍艦島の断面図。島の中心部では中央の岩礁に沿って建物が建てられているのが分かる。このような建築方式は遠く離れた地中海や中近東の伝統集落で数多く目にすることができる。海風が強い上に建物が密集する端島では火災による被害も大きく、台風の次に恐れられていた。真水が貴重であった端島では海水を利用した消火栓が島全体に設置され、地域ごとに消防団によって管理された。実測調査の中で特に注目したのが30号棟。試行錯誤の結果、鉄筋の代わりに炭鉱で使用するワイヤーロープが使われている。これは通常の建築ではあり得ないことだそう。完成当時は4階建て、その後すぐに建て増しが行われて7階建てに。下層部分は劣化が激しかったため、昭和28年に上層部分をジャッキ付鉄パイプで支えて下層部分を新しく作り直している。これは当時でも珍しい建築方式だった。阿久井先生たちが調査を終えてから約30年後、2014年に私たちは特別な許可のもと、記録撮影のために島の奥深くへ入った。廃墟と化した迷路のような建造物は今にも崩れ落ちそうだったが、危険な状況にも関わらず不思議な魅力を感じていた。
住所: 長崎県
