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- 長谷川博己
オープニング映像。
”トランプ関税”。突然、あらゆる輸入品に関税をかけると言い出した、トランプ大統領。これに慌てたのが日本の自動車メーカー。自動車大手7社で年間2兆円の利益が吹き飛ぶとも言われている。
5月、アメリカ・オハイオ州では、日系の自動車部品メーカーがトランプ関税に翻弄されていた。大同メタルU.S.Aの社長・大倉康裕さんは、飛び込んで来たニュースに目を疑った。「トランプ関税に司法の壁、差し止め命令」。トランプ大統領が関税政策を発表して以降、大倉さんは毎日振り回されているという。大同メタルの主力製品は、軸受け。オハイオ州の支店では、日本とメキシコで製造した軸受けを一時的に保管していた。4月に発表された10%の相互関税は自社で負担しているが、日米の交渉がまとまらなければ24%まで上昇する可能性がある。高い関税をかけて”アメリカに製造業を取り戻す”というトランプ大統領、対応を迫られる日本の製造業の最前線を追った。
5月26日神戸港、建設機械大手のコマツのショベルカーが船に積み込まれていく。この時、相互関税は90日間の執行猶予期間中。その間になるべく多くの製品をアメリカに届けようとしていた。コマツは今年度、トランプ関税の影響で営業利益が934億円下振れすると見ている。純利益は前期比約30%減少する見通しだが、影響を少しでも緩和したい。コマツは2つの方法でアメリカに建設機械を輸出している。一つは完成車を輸出する方法、もう一つは日本や中国などから部品を輸出して、アメリカで組み立てる方法。コマツは5月に追加関税対策プロジェクトチームを結成、高橋さんはそのリーダーを務める。コマツはコストを下げるため、中国製部品の調達を拡大してきたが、高橋さんは中国から安く買えなくなる状況に備え、部品調達先の見直しを検討していた。
5月下旬コマツ創業の地、石川県。トランプ関税対策チームの高橋さんが、部品調達の責任者・黒滝さんと動き出していた。訪れたのは、コマツの協力企業「タガミ・イーエクス」。半世紀以上に渡り、ブルドーザーなどの部品をコマツに供給してきた。高橋さんたちは、中国からアメリカに輸出している部品を日本でもっと作れないか相談にやってきた。これまで中国で製造しアメリカに輸出していた部品のコストアップに備え、今後は関税率が中国より低い日本で増産しアメリカに輸出したいと考えていた。今後のトランプ関税の状況を見ながら、協力を進めていくことで一致した。しかし、そのわずか4日後、今度は「鉄鋼・アルミニウム」の輸入に関する関税を50%に引き上げると宣言。6月4日に発動された。
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次々とカードを繰り出しルールを変えるトランプ大統領、6月4日に発動された50%の「鉄鋼・アルミ関税」。今度は素材に課される関税のため、日本から輸出しても中国から輸出しても回避できない。東京・港区のコマツの本社では、50%の「鉄鋼・アルミ関税」に関税対策チームの高橋さんが、渋い顔をしていた。
6月上旬、アメリカ・サウスカロライナ州にあるコマツのニューベリー工場。中国を始め世界中から調達した部品を組み立て、ホイールローダーなどを製造している。関税対策チームのメンバー・村井さんが急遽現場を確認し、中国製の部品を関税がかからないアメリカ製に切り替える選択肢はあるのか検証しに来たという。この日村井さんが向かったのは、コマツの工場から車で数分のところにあるアメリカのサプライヤー「ビッグ ガン ロボティクス」。10年前からコマツと取引があり、ホイールローダーなどの部品を供給している。会社のオーナーであるリーさんが、自ら工場を案内しコマツの部品をもっと作れると猛アピールした。トランプ関税を追い風に交渉が始まる、アメリカでどれだけコストを下げられるのか、村井さんは持ち帰って検討することにした。
優先するのはアメリカか中国か、決断を迫られる日本の製造業。4月に就任したばかりのコマツ・今吉社長の答えは。
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トランプ関税が自由貿易体制を揺るがす中で、今年の4月にコマツの舵取りを任された今吉社長。今回の貿易戦争・関税については、保護主義的な動きが今後も続くとすると、変化の時なのかなと思うと話した。
トランプ関税は日本の稼ぎ頭「自動車産業」にも大きな脅威となっている。岐阜県関市にある自動車部品の工場、大同メタル工業の生産拠点。年間約1億個の部品をアメリカへ輸出している。大同メタルのトップ・判治会長は、トランプ関税によって増えるコストについて関税を回避するためにアメリカで製造する考えは「今のところ全くない」と断言した。
なぜトランプ政権は高い関税をかけて、製造業を取り戻そうとするのか。その理由を探るためアメリカ・オハイオ州の小さな街を訪ねた。人口5万2000人のミドルタウン、主な産業は100年以上前から創業する製鉄所。USスチールより生産量が多い、クリーブランド・クリフスが運営している。錆びた工業地帯「ラストベルト」の典型的な田舎町。この街に製鉄所ができたのは1899年、自動車産業の発展と共に従業員も増え街は活気づいていった。製鉄所で働けば、中産階級の豊かな生活が約束された。しかし、自由貿易によるグローバル経済の拡大と共に安い海外製品が入ってくると、アメリカの鉄鋼業は急速に力を失っていった。ミドルタウンの製鉄所の従業員は、この20年で4000人から2500人まで減っている。
ミドルタウンは、J.D.バンス副大統領の出身地として知られている。激戦州の白人労働者層から圧倒的な指示を集め、トランプ大統領再選の立役者とも言われている。そのバンス氏が選挙中に何度も訴えた公約が、アメリカに製造業を取り戻す。少年時代、ミドルタウンで貧しい生活を送ったJ.D.が、その悲惨な体験を描いた「ヒルビリー・エレジー」はベストセラーになった。市内にある支援団体の事務所では、生活困窮者に食べ物を支給している。建物から出てきたのは、食料品を両手いっぱいに持った親子など様々。今年に入り、130人が働く再生紙の工場も閉鎖された。アメリカの繁栄から取り残された人たち。
5月26日、この日は戦没者を追悼する祝日だった。ミドルタウンでは恒例のパレードが開催された。「製造業を取り戻す」それは、アメリカの繁栄から取り残された人たちにもう一度希望と誇りを取り戻すことでもある。
5月26日、東京・霞が関。日米の関税交渉を担当する赤沢大臣を訪ねたのは、群馬県の山本知事。赤沢大臣に陳情するためやってきた。地元の製造業への打撃を懸念していた。アメリカ市場への依存度が高いSUBARUや、そのサプライヤーが群馬県に集積している。藤岡市にある、自動車部品メーカー「豊田技研」。社長の豊田さん、得意とするのはプレス機を使った絞り加工。単価の安い部品をコツコツ作って売上高は24億円、その半分以上をアメリカで稼いでいる。ところが今、豊田技研に異変が。突然、アメリカ向けの注文が倍増したという。急激に受注が増えると、その反動で大きく落ち込む可能性があり喜べないという。予測不能の事態に豊田さんも戸惑うばかり。
豊田技研を創業した、豊田勇三郎さん。東京・浅草に生まれ戦争の空襲で群馬に疎開、裸一貫で会社を立ち上げ多くの技術者を育てた。今や従業員は130人、その生活を守らなければならない。しかし豊田さんには、アメリカの関税で倒産の危機に直面した過去があった。1995年の日米自動車交渉。当時の橋本通産大臣とアメリカのカンター代表が、関税をめぐって激しい交渉を繰り広げた。取引先から部品をアメリカで生産すると通告され、豊田さんは慌てて現地へ飛んだという。ところが、アメリカでテスト生産をしたところ精度が悪く、結局豊田技研が日本で製造し輸出を続けることになった。これを機に技術力の高さが証明され、逆に注文が増えたという。あれから30年経った今、アメリカが本気で製造業を取り戻そうとしている。
6月上旬、高崎市にある居酒屋で専務の信也さんが社員との飲み会を開いた。信也さんには、何か秘策がある様子だった。
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群馬県藤岡市の豊田技研。この日工場の一角では、丸いアルミ素材を使った新製品の試作を行っていた。専務の信也さんをリーダーに、LEDライトの熱を逃がす部品の小型化に挑んでいた。1回のプレスで細長い突起を作る独自の技術、製造コストを抑えられるという。親から子へ受け継がれる技術で、この難局に立ち向かう。
6月12日、トランプ大統領は輸入自動車の関税を更に引き上げる可能性を示唆した。その後、日本製鉄によるUSスチールの買収計画を承認した。今後、USスチールは日鉄からの巨額の投資をテコにアメリカ製の復活を図る。