- 出演者
- 長谷川博己
オープニング映像。
北極圏に位置するノルウェー領・スピッツベルゲン島。夏は太陽が沈まない白夜の季節。北緯79度にあるのが1991年に作られた国際観測村。日本を始め11カ国が施設を設け、北極圏の観測拠点にしている。学者たちはそれぞれ研究テーマを持って、この極北の地にやってくる。中でも注目するのは、”地球温暖化”ここはその最前線。地球平均の3~4倍で温暖化が進行していると言われている。日本の研究チームに密着すると、目指したのは東ブレッカー氷河。近づくといく筋もの水の流れが立ちはだかる、氷河が溶けて流れ出たものだが氷河に含まれる鉄分のせいで水の色は”赤”。歩き続けること3時間、氷河の上に到着。夏に北極海を覆う氷の広さを表した分布図では、衛星観測の記録では年々面積が縮小しているのがわかる。氷の減少は北極海の水温や海流を変えることになり、そこで暮らす動物や魚にも大きな影響を与える。北極の急速な温暖化の影響は、日本近海でも現れ始めていた。
11月上旬、富山県魚津市。午前3時、一番船が戻って来るがお目当てのブリの姿が見えない。目につくのは、温かい海を好む魚ばかり。日本近海の海水温はこの10年で1.7℃上昇、魚にとって1℃の変化は人間にとっての10℃に相当する。自ずと捕れる魚も変わってくる。富山だけではなく、今全国の海で見逃せない異変が起きている。長崎では魚の種類が一変し、北海道ではカニが大発生、三陸では謎の魚が捕れ始めた。頭を抱える地元の人達、見慣れない海の幸をどうしたらいいのか。難問解決に名乗りをあげたのは、水産業界の革命児。海の中で起きている大事件を、アイデアと行動で突破していく人達の果敢な挑戦を追う。
東京・中央区勝どき、海の温暖化に対しいち早く動き出したベンチャー「フーディソン」がある。12年前水産業界に革命を起こそうと企業した、山本徹社長。元々は介護業界の出身。番組は以前、山本さんの戦略を取材していた。全国各地の港にバイヤーを派遣していた、新規参入者には厳しいと言われる業界だがフーディソンのバイヤーは受け入れられた。そのわけは、競りにもかからない未利用魚に適正な値段を付け買い上げたことで、困った漁師たちの助けになっていたから。買った魚は自社で運営する「サカナバッカ」で販売。東京・埼玉に10店舗を展開している。その店内には珍しい魚が全国から届いていた。地元の人しか食べていなかった美味しい魚たち、今や常連を掴んでいた。更に飲食店向けECサイト「魚ポチ」を開始、1尾から注文できる。現在日本全国で4万店以上の飲食店が登録している。そして今、フーディソンでは温暖化が投げかけた難解なパズルに挑もうとしている。これまでの常識を覆す海の変化に、山本社長はあるチームに社運を託した。大田市場に集めた、少数精鋭のバイヤーたち。リーダーは星野健一郎さん。それぞれが得意分野を持つスペシャリスト、海の異変で生まれた数々の難問に向き合っていた。その1人、萩野那由太さんは加工品を特に得意としている。
4月上旬、萩野さんの抱える難題の現場・長崎県雲仙市の港町に同行した。午前4時まき網船が漁から帰ってきた。この日は大漁だったが、萩野さんが訪ねた漁師たちは浮かない顔。本来狙っていたのはカタクチイワシ、ところが最近はサッパという魚しかかからない。魚種が変わってしまったという。萩野さんはサッパをどうにかできないかと相談されていた、この漁港では昔からカタクチイワシを原料に煮干しを作ってきた。サッパだと使い物にならないという。養殖魚のエサとして漁協が買い取ってくれるが、1キロ数十円ほど。人件費はもとより船の油代にもならない。サッパが捕れれば捕れるほど赤字で死活問題。お金にならない魚をお金にする、萩野さんが難問に挑む。萩野さんは今回、サッパの煮干しを手に入れたという。サッパはカタクチイワシよりも脂が少ないのが特徴、出汁を取り飲み比べてみようという。まずは6トン分のサッパを使って煮干しを作ってみることにした、休業中だった加工場が再び動き出す。出来上がったものはフーディソンが1キロ500円で買い取ることに、これまでエサとして漁協に出していた売値の約8倍。萩野さんには勝算がある様子。
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雲仙市の港町、カタクチイワシが捕れなくなり煮干しを作れなくなり、捕れるのはサッパばかり。漁師から相談された、フーディソンのバイヤー荻野さん。カタクチイワシの代わりにサッパを使った煮干し作りを提案し、それをフーディソンが買い取った。サッパの煮干しを持ち込んだのが、魚介類のスープが人気のラーメン店「クラム&ボニート 貝節麺ライク」。店主が仕込みの真っ最中、通常の煮干しの2倍の量を使っていた。早速商品化、じっくり煮出したスープを一晩寝かせるととろみが付き、最後は塩で味を整えた。そこへストレート麺を入れて、これからの季節にピッタリの「サッパ煮干の冷やし麺」が出来上がった。萩野さんも気になってやってきた。上品な出汁には自信があったものの、それを上手に利用してもらえるかは賭けだったが、上手くハマった味覚のパズル。勢いに乗り、魚ポチでも販売を開始した。
温暖化による海の異変、そこから生まれた難問にフーディソンのバイヤーリーダー・星野さんが挑んでいた。星野さんが向かったのは兵庫県香美町、いたるところにカニの姿があるカニの街。甘みの強いベニズワイガニが町の産業を支えている。3月下旬、この日はシケが続いていて競り場に並ぶカニはいつもの半分ほど。競り値がつり上がっていく。地元のカニ加工会社に務める駒居さん、高値になりすぎていつもの3分の1の量しか買えなかった。駒居さんの会社は港のすぐそばにある、街きっての水産加工会社「マルヤ水産」。しけや禁漁期は生産停止にせざるを得ない。そんな中、星野さんが仕掛けていたカニが運ばれてきた。約2年前から北海道えりも町などでオオズワイガニが大量発生するようになった、味は良いがブランドガニが多い北海道では売れにくく困っていた。そこで星野さんは、空いている「マルヤ水産」の加工場を見つけてカニを大移動させていた。これで従業員を休ませる必要がなくなり、ベニズワイガニと同じ工程で茹でるため新たな設備投資も必要ない。北海道のカニ漁師にも香美町の水産会社にもメリットがあるが、フーディソンはどうなのか。加工場では、カニをバラバラにし身を取り出していく。そして一つの甲羅に約2杯分の身を盛り付け、豪華な甲羅盛りに仕上げた。サカナバッカや魚ポチで売り出した所、大ヒット商品に。三方善しならぬ四方善し、これが星野さんの考えた海のパズルの解決法だった。
次のパズルは東北。三陸の海岸にある太田名部漁港、漁師たちが出港を待つ詰め所にフーディソンのバイヤー山本英満さんの姿があった。定置網漁船に乗り込んだ山本さん、夏頃から見慣れない魚がかかるようになったため1度見に来てほしいと相談を受けていた。出港から30分、引き上げが始まった。この地域では、マンボウはスーパーでも売られ刺し身や天ぷらにして食べられているが、三陸沖も温暖化の影響を受けていた。漁師たちが見せたかった魚は、温かい海を好む「アカヤガラ」。九州では高級魚として扱われているが、地元では売れないため競りにもかけられない。これこそフーディソンが得意とするところ、山本さんは早速買い付けた。
山本さんは漁港の隣町、宮古市の出身。14年前の大震災で宮古市は行方不明者を含む517人が犠牲となった。地元で震災を経験していない山本さん、若い頃に務めた田老町漁業協にやってきた。漁業に活気のあった良き時代、当時を知る仲間たちと思い出話しで盛り上がった。あれから25年、宮古市の海は変わってしまった。港町の経済を支えていたサケが、温暖化などの影響で寄り付かなくなり孵化場も今ではほとんど使われていない。窮地に追い込まれていた故郷へ、山本さんの恩返しが始まる。
大田市場にあるフーディソンの加工場では、バイヤーたちが全国で買い付けた魚を出荷用に加工する。山本さんが「アカヤガラ」を持ってきた。大量発生に備え先手を打って商品化の準備を進める。九州では高級魚のアカヤガラは、料亭でも出されるほどだが東日本では見慣れない魚。価値を広める方法を試行錯誤する。
東京・日本橋では、飲食店向け通販サイト魚ポチの配達中。店で出す魚の9割を魚ポチで仕入れいている、魚専門の料理店。板前歴38年の店主中村さん、刺盛りには珍しい魚が何種類も入っていてお客さんに喜ばれる。この日届いたのは、あの「アカヤガラ」。山本さんに頼まれアカヤガラのメニューを試してくれる。加工場で話にあがった串焼きや中村さんのアイデアで鍋料理などを作り、試作品を常連さんに食べてもらった。小さいサイズでも良い出汁が出ていると、お客さんの評判は上々だった。
出汁と言えば、バイヤーの萩野さんが手掛けた、長崎県雲仙市の煮干し工場で作ったサッパの煮干し。飲食店からの反応もよく、加工場にも活気がある。この日萩野さんは、新たな仕事の依頼にやってきた。フーディソンを通じてビジネスが広がりを見せていた。岩手県宮古市ではアカヤガラを売る準備が整い、後は待つばかり。三陸の海にアカヤガラが来るのは夏頃、山本さんの故郷への恩返しが叶いそう。
東京のサカナバッカでは、子供向けに魚教室を開いている。子どもたちが大人になった頃、アカヤガラが東京の食卓で当たり前に食べられているかもしれない。
海の幸のパズルに挑み続けるフーディソン、社長の思いは「海洋環境が変わっていくのが仕方ないとも思っていないが、今ままで価値に転嫁しなかったものをどう価値につなげていくかが重要な課題」だと話した。北極圏・スピッツベルゲン島では、温暖化によってある生き物に異変が生じていた。
温暖化の最前線、北極圏・スピッツベルゲン島。夏になると繁殖のため2500キロ以上離れたスコットランドから飛来するカオジロガン。しかし年々、北極圏に渡ってくる時期が早くなりその分植物が食い荒らされている。温暖化と関係があるのか、その謎を解くため内田さんはオランダ出身のマルテン・ローネン博士を訪ねた。博士は国際観測村で35年間渡り鳥の観測・研究を続けている。温暖化がもたらす食のパズル、地球からの問いにどう向き合っていくか。
エンディング映像が流れた。