- 出演者
- 桑子真帆 遠藤乾
3日未明、アメリカはベネズエラの首都で軍事作戦を展開、マドゥーロ大統領を拘束した。その狙いを紐解く鍵は力により平和を掲げる新戦略にあった。番組では世界的な国際政治学者を独自取材。トランプ政権が揺るがす国際秩序について考える。
オープニング映像。
ベネズエラの大統領を拘束しニューヨークに移送したトランプ政権。攻撃を“麻薬犯罪への法の執行”と正当化している。先月公表された国家安全保障戦略に今回の作戦の起点となる構想が記されていた。最優先とされているのが西半球の安定。競合する外国勢力の侵入を排除する方針が記されている。マドゥーロ大統領は反米を掲げ中国やロシアと関係を深めてきた。こうした国々の影響力を削ぎ、アメリカの優位を取り戻す狙いが浮かび上がる。新戦略では西半球の資源の重要性も強調されていて、トランプ大統領は会見で「石油」と連呼した。
しかし、国際社会では批判が相次いでいる。専門家は「麻薬犯罪を根拠に攻撃を正当化することはできない」と指摘する。さらに、武力で他国の領土や政治的独立を脅かすことを禁じた国連憲章に反すると批判した。一方で、アメリカに亡命したベネズエラ人からはトランプ政権の強硬な姿勢を支持する声も。政権に反発する人々が弾圧されてきたベネズエラ。国外に逃れた人は約790万人に上る。ベネズエラから8年前にアメリカに逃れたジャーナリストは祖国への軍事攻撃を複雑な思い出受け止めている。国際法の専門家は、力による支配が横行する世界の危険性を指摘する。
スタジオでは国際政治が専門の遠藤氏に話を聞く。遠藤氏は今回の件について「衝撃でした。振り返るとアメリカにはこういう伝統があるが、他方で人権や法の支配・民主政を推進し正しさを体現してモデルともなっていた。そういう国は国際法の規範を一顧だにしない、国際関係の根幹をひっくり返すような行為をしている。トランプさんは今までの米大統領が持っていた“正しさ”のようなものを放棄してしまった」と話した。
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- ドナルド・ジョン・トランプ
ワシントンから中継。けさアメリカでは国連安全保障理事会の緊急会合が開かれた。トランプ政権は今回の軍事作戦について、麻薬テロリストとみなすマドゥーロ大統領を拘束するための法執行の一貫だと正当性を主張したが、中国やロシアはこれを強く非難し、欧州の国からも直接非難は避けつつも国際法の重要性を訴える声があがった。中南米の国からは批判が相次ぎ、アメリカがこの地域への関与を強めようとする中、反発を引き起こす結果となっている。中南米の国々、この地域で影響力を持つ中国やロシアの反発がさらに強まれば今後の展開に影響を与えるとみられ、これらの国々のこれからの出方も鍵になると言える。
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- マルコ・ルビオ国際連合安全保障理事会
毎年アメリカの調査会社か発表する“ことしの10大リスク”が発表され、このうち4つがアメリカに関連するもので“ドンロー主義(ドナルド・トランプ版 モンロー主義)”について注目する。モンロー主義は200年程前に当時のモンロー大統領がアメリカとヨーロッパが双方に干渉しないことを宣言した考え方。トランプ大統領はこれを自分流の手法にあわせて西半球をいわばアメリカのなわばりにしようとしている。遠藤氏は「いわゆる勢力圏的な発想。西半球以外は中国やロシアといった強い勢力が担うと、強いリーダーとディールをしていこうという姿勢が見える」と話した。
国際政治学者のイアン・ブレマー氏のインタビュー。ブレマー氏は「世界で最も強い国が世界秩序の原則を劇的に変えている。アメリカが一方的にルールを変えている」とし、時代が転換するいま優位に立つのは強い指導者を持つ国だと危機感を示した。
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- イアン・ブレマー
アジアへの影響について、遠藤氏は「世界が勢力圏ごとに分割されていく。東アジアを担うのは中国が有力な候補になる。日本はギリギリその勢力の一端かもしれないが、トランプ政権はレアアースや大豆などを念頭に中国に傾斜している。日本が相対的に重要でないポジションに置かれる可能性がある。その中のひとつが台湾。日本にとって死活的な利益が絡むところで簡単に米中でディールされてしまうリスクがある」とした。
国際秩序がゆらぎ、大国による力の行使が強まる中でその役割が改めて問われているのがICC(国際刑事裁判所)。ICCは戦争犯罪を行った国の指導者などの罪を問う常設の裁判所。しかし今かつてない窮地に立たされている。
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- 国際刑事裁判所
先月開かれたICC締約国会議で、ICC所長の赤根智子さんは強い危機感を訴えた。ロシアがウクライナに侵攻し、ICCは子どもをロシアに移送した疑いでプーチン大統領らに逮捕状を出した。さらに、イスラエルがガザへの大規模攻撃を開始、ICCは戦争犯罪などの疑いでネタニヤフ首相らに逮捕状を出した。これに対し、ロシアとイスラエルを支持するアメリカは強く反発。ICC裁判官18人中、12人がアメリカの制裁やロシアの指名手配を受けている。職員はアメリカ系の銀行やITサービスの利用が制限されているという。ICCが誕生したのは約25年前。第2時大戦後、半世紀に及ぶ議論の末に国際法による正義を実現する裁判所として設立された。現在、125の国や地域が加盟、アメリカやロシアは参加していない。これまで34件が訴追され、アフリカの武装グループ指導者などを有罪にしてきた。
しかし今、ICCに加盟する国からも大国に配慮し離脱する動きが出ている。その1つがハンガリーで、イスラエルやロシアとの関係を重視してきた。去年、逮捕状が出ているネタニヤフ首相を招待し、ICCからの脱退を表明。自国の外交が制限されることに反発している。さらにモンゴルも逮捕状の出ているプーチン大統領の訪問を歓迎し、ICC加盟国の結束が揺らいでいた。そうした中で開かれたICC締約国会議。大国の脅威にさらされる国や地域はICCの意義を強く主張した。被害を訴える当事者たちも声を上げた。赤根さんは会議の合間を縫って20近い国の代表と会談を重ねた。モンゴルの代表とも会談し、今こそ団結が必要だと熱心に語りかけた。
ICCの重要性について遠藤氏は「戦争犯罪を裁く唯一の国際機関。被害者は往々にして弱い立場で最後の砦として存在している。生まれてまだ四半世紀でこれを育てていく意識が必要」とした。日本がとるべき道については、「力を無視することができない中で、自分から挑発しない、目的を限定して事態に対処する、また時間軸のうまい使い方が大事。中長期的には規範・ルールを含めた力以外の要素を育てていく」などとした。
イアン・ブレマー氏は「これまでアメリカは同盟国にも敵対国にも“法の支配”と“民主主義”を広めてきた。これが劇的に変わりつつある。ドンロー主義を掲げるトランプ大統領はこれを外交政策の看板として売り込んでいる。トランプ大統領は成功するのか、どちらにせよ急いで対応しなければ。世界の秩序が変わっている」と話した。
