- 出演者
- 佐々木明子 真山仁
温暖化ガスの輩出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を2050年に実現させるGX推進法。岸田総理大臣は「脱炭素と経済成長の両立に果敢に取り組む企業に対して思い切った 投資促進策で応えていく」と発表。10年間で官民合わせて150兆円以上を脱炭素に投資しエネルギーの展開を急加速させる。世界各地で再生可能エネルギーの開発競争が激化している。巨大地熱発電に挑む開拓者は「地熱アポロ計画」と語る。「アポロ計画」では不可能と言われながらもチャレンジを繰り返し前人未到の月面着陸を成し遂げた。小説家・真山仁(著「ブレイク」「マグマ」)は「地熱発電」「原発事故」をテーマに執筆、原発事故前に発表し「予言の書」と言われている。小説家・真山が地熱アポロの開拓者を取材。
オープニング映像。
小説家・真山仁は産業技術総合研究所「福島再生可能エネルギー研究所」を訪問。日本の地熱発電研究の第一人者・浅沼宏副研究センター長に話を聞いた。浅沼氏は「安定している、純国産、二酸化炭素の排出量が少ないと考えると非常にメリットがある」と指摘。太陽光、風力は夜になったらダメ、風が吹かなきゃダメだが地熱発電は24時間365日ずっと発電できる(ベースロード)。これが出来るのは原発と地熱発電のみ。地熱発電はマグマの力を利用、二酸化炭素の排出がほぼ無く、24時間安定して発電可能。火山帯が多い日本は、地熱エネルギーで世界3位のポテンシャルがあると言われている。しかし電源構成を見ると火力が7割以上wを占め地熱発電はわずか0.3%に留まっている。日本では、これまで大規模な地熱発電所を作ることができず国内最大の発電所でも11万kW(原発の10分の1程度)。
浅沼氏は常識を破る巨大地熱発電の開発を目指している。浅沼氏によると「チャレンジしているのは超臨界地熱発電という新しい発電方法」。通常の地熱発電は地下約3000mにある300℃の水を掘り出し、その蒸気で発電する。超臨界地熱発電は、地下5000mの地熱を利用する。そこには液体と蒸気の区別がつかない超臨界水(500℃)があり、この蒸気を利用すれば通常の10倍の電力を生み出すことができる。超臨界地熱発電ができた場合、1発電所あたりの発電容量は100〜200メガワット。1地点あたり1ギガワットくらいいけそうな地域もあるという。原発1基分は100万キロワット。最終的には石炭火力を全部超臨界地熱で置き換えることを目指す。2025年までに調査掘削を予定、2040年に試験運転を開始する。
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- 超臨界地熱発電
小説家・真山仁が産業技術総合研究所・再生可能エネルギー研究センター・浅沼宏に話を聞く。データの解析室では、臨界地熱に関する様々なデータの解析を行っている。地熱地帯では人間が感じないような微小地震が起こりその解析を行っている。どういうところに流体や熱水がありそうかが分かってくるという。地熱資源の探査でよく用いられる地価の電気抵抗の測定では、電気が流れやすい所は岩石の中に水が多くあるところになり、超臨界地熱貯留層の可能性が高くなる。AIを使ってこれまで分からなかった情報を取り出そうというアプローチもしている。こうした調査を組み合わせ、超臨界地熱発電に最適な場所が岩手・葛根田地域の地中にあると発見。葛根田地熱発電所は1978年に運転開始、この地中に巨大エネルギーがあるという。浅沼氏は「失敗の可能性は極めて低い」と発言。
超臨界地熱実現への大きな壁は「極限の温度と圧力」。アイスランドでも2009年に高温の地熱資源を狙って穴を1本掘っている。しかし、事前調査が不十分で1200℃のマグマに突っ込んだ。さらに地下4500mまで掘削したところ、450℃の高濃度塩酸が噴出した。摂氏500℃、気圧140倍のため従来の装備では耐えられない。このため浅沼氏らは新開発の部品を開発している。素材にはシリコンカーバイドを使用している。これは、非常に密度が高く原子炉の圧力容器に使われた素材。温度や圧力が高いため今の技術では到達できないことは分かっている。コストについて経済産業省から「普通の発電と同じくらい」と言われているという。
アイスランドでは国家プロジェクトとして超臨界地熱の開発を行っている。米国・エネルギー省は2050年までに原発120基相当(最大1億2000万kW)の地熱発電を計画している。脱炭素を進めるIT企業「Google」が地熱発電を開始した。AIの普及で使用電力が急増するデータセンターに安定電力を供給する狙いがある。日本の超臨界地熱発電の候補地は4カ所(八幡平、葛根田、湯沢南部、九重)。2040の試験運転を目指している。日本の課題は「長期開発の投資リスク」。開発期間は約10年、試掘には約100億円確保しなければならない。発電所を作る費用は約1000億円、原発よりは安いという。インドネシアでは国の後押しで民間企業の地熱発電への参入を活発にした。インドネシアの地熱発電(設備容量)が2010年からの10年間で倍増。発電量は世界2位に躍り出ている。
インドネシアでは2014年に地熱法を改正。国立公園内の発電所建設などの規制を緩和した。日本の壁は「法律と規制」。日本には地熱に特化した法律がなく規制も多い。国立公園は基本的には人が入ってはいけないエリアがあるが、そういう所に地熱のすごく良い貯留層がある。先進諸国では、地熱法があるが日本は整備されていない。一応、国会議員の超党派議連があり地熱法を作ろうという動きはある。浅沼氏が地熱にこだわるきっかけは「大学時代、仙台市の地下に2kgの岩があり熱を取ったら日本中の電力を賄えると聞いた」こと。浅沼氏は東北大学の教授として世界各地で地熱発電を研究。13年前に原発事故が発生、政府のエネルギー政策の大転換で人生が激変したという。2013年、地熱発電のプロとして産総研へ。監督官庁である経産省に挨拶に行った際に「あなたのミッションは発電すること」と言われ反省したという。日本の使命として脱炭素化も図らなければならないなどと考えた時に、わが国で自給できるエネルギーは最大限利用できるようにしよう、お互いの欠点をみんなで補っていかないとエネルギーの問題は解決しないなどと話した。
原発に匹敵する地熱発電開発に挑む産総研の浅沼氏。超臨界地熱で分かった科学や技術は地球科学をはじめとする他分野にも適用可能、そういう意味でアポロ計画だという。超臨界地熱発電は様々な科学や技術が絡み合って非常に難しい問題。それを成し遂げるために技術者や研究者と連携して難しい問題を解き、最終的に発電に結びつける。これが「ブレイクスルー」だという。大変なことが山積みにあっても負けないと思えるのは、そこに超臨界地熱資源があると信じているから。それが実現された場合に日本人にとってどれくらいメリットがあるか十分理解して腹をくくっているという。