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オープニング映像。
京都にやってきたのは篠原ともえ。京都市京セラ美術館にやってきたが現在96歳の前衛芸術家の草間彌生の展覧会が開催中。他にもポップでカラフルな立体造形で知られているが、今回はひと味違う作品があつまった。展示されているのはすべて版画作品。テーマは反復と増殖。版画の特徴は同じ作品を大量に刷って作れること。さらに色違いを作って変化を楽しむことができる。
縦およそ2m、横6mの草間彌生が描いた原画をもとにした巨大な富士山が展示されている。この富士山が版画に生まれ変わり、今日の作品は「七色の富士」。数ある版画の中でも異質。赤く染まった山肌。点画に描かれた1万4000個の水玉を一つ一つ性格に再現している。和紙に重ね刷りされた顔料がじわりとにじみ、山肌の赤も。太陽の金色も独特の奥行きを生み出す。しかもこの作品は赤の他に鮮やかなピンクや鮮烈な黄色など全部で七色もある。これは異色のコレボレーションで作られた。アダチ版画研究所は江戸時代に生まれた浮世絵版画の高度な技を継承して数多くの復刻版を制作してきた職人集団。陣頭指揮をとった中山さんはMoMAで草間彌生のすごさを実感し、今までの富士山のイメージとは違うものができると期待したという。富士山は草間彌生に途方もないインパクトを与えた。そして前代未聞の作品が生まれた。
長野県松本市で草間彌生は商家に生まれた。絵を描くのが大好きな少女時代。10歳で描いた母と思われる女性の肖像画は水玉で覆われている。草間彌生作品を数多くス所蔵する松本市美術館。20年以上作品の展示を担当する学芸員の渋田見さんは草間彌生は自分が他の人とは違う感覚をもっていることに気づき、心の中から浮かび上がるイメージは膨らんできてそれが制御できないくらいイメージがでてきている。それをどう表現しようかと感じた時に沢山描くしかないと感じたという。とどまることなく膨らんでいく自分だけにしか見えないもの。草間はその恐怖を乗り越えようとキャンバスに向かった。反復と増殖はこうして生まれた。その反復と増殖は版画によって磨かれていった。
草間彌生は1957年に27歳のときに単身渡米。渡米後にすぐに発表した無限の網No. AB.。真っ白に見えるが白い無数の線が重なるように描かれている。斬新な表現でニューヨークのアートシーンで一躍注目を浴びた。親しい人の死や体調不良の重なりで帰国を余儀なくされた。日本で描いた作品は後のポップでカラフルな表現とは程遠く、死の匂いすら漂う。画壇で話題にあがることもなく、草間は不遇の時代を過ごすことになる。そんな時初め挑戦したのが版画だった。草間の最初の版画作品を一緒に制作した石田了一さんは、原画をもとに色を選び版画を仕上げる刷り師。草間の絵を元にした初の版画の靴をはいて野にゆこうは草の形をした靴紐が繊細に表現されて植物が大好きな草間さんらしい。版画になった自分の作品をみた草間は嬉しそうだったという。その後も石田さんとの共同制作は続いた。原画にひと味加えた石田さんの刷りの技が草間のインスピレーションを刺激した。原画をもとに刷りを重ねる版画は、反復と増殖の芸術。版画を通して草間は自らの表現を突き詰めた。渋田見さんは版画になったことで色数を減らし筆の濃淡を排除したという。世界は草間彌生という才能を再発見した。そんな版画作品の集大成となったのは2014年に制作した七色の富士。
草間彌生の浮世絵版画「七色の富士」。その中には黒い富士山がある。黒い山肌。七色の富士はある偶然がきっかけで生まれた。2014年に84歳の草間彌生が河口湖畔で初めて富士山を目の当たりにした。その時のことを素晴らしいと答えたという。富士山は独立峰で、これほど優美に広がる裾の尾を持つ山は世界でも珍しい。気高くそびえる美しさにすっかり心を奪われた草間。そして描いたのが縦横2mのキャンバスを3つつなげたキャンバス。心の内面を表現してきた草間にとって眼の前の風景を描くのは異例のことだった。
その原画をもとに、アダチ版画研究所の職人たちは版画を作り上げていった。版木は全 部で9枚。原画に描かれた1万4000個の水玉は一つ一つ彫りで忠実に再現した。中山さんは色違いの版画を2パターン制作してみようと考えた。本人への承諾もなかったというが、刷り上がった七色の富士を恐る恐る見せにいくと、草間は素晴らしいと答えたという。一つ一つの色をみた感動をその場で言葉にしたがそれが作品のタイトルになっている。七色の富士は各色120部合計840部がすられ世界中に増殖していった。しかし、それを最後に新しい作品は制作していないという。
2014年に完成した七色の富士。その後草間彌生は版画を作っていない。版画を作り続けてきたのは、より多くの人に自分を知ってもらう手段だった。渋田見彰さんはもうその手段は達成していると語った。
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