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オープニング映像。
上野公園にやってきたのは和田彩花。今日は西洋絵画の一大ジャンルの静物画の原点をみにいく。現在 ルネサンスからの600年にも及ぶ企画展が開催中。中でも目玉と言える作品は奥にあり、今回初公開になるのはフアン・サンチェス・コターンのマルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物。およそ450年前に描かれた現存するスペイン最古の静物画。ごつごつした手触りまで感じられるキュウリ。表面にシワと果肉に無数のタネを挟んだメロン。吊り下げられたキャベツには葉脈の1本本が丁寧に書き込まれている。そこにはかすかに傷むマルメロが。
描かれているのは生活感あふれる身近な食材。見れば観るほど疑問が湧いてくる。国立西洋美術館の川瀬さんはその絵画の見方についてサスペンスと語る。
フアン・サンチェス・コターンのマルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物と同時期に描かれたという静物画を紹介。フアン・バン・デル・アメンの果物籠と猟鳥のある静物の静物画は食べ物が多く、どれも美味しそうに描かれている。しかしコターンの描く食材は美味しそうにはみえない。普段人々がみえない見え方で配置される。
フアン・サンチェス・コターンのマルメロ、キャベツ、メロンとキュウリの構図は食材が置かれた舞台はなにかの枠のようにもみえる。よく見ると画家の名前が彫り込まれている。西洋絵画では画面全体にバランスよくモチーフを描くことが多いが、コターンはオリジナルの舞台に食材を吊るして弧を描くように配置。画面のくに広がる不自然な黒い背景。また光が特徴で吊下げたモチーフが関連しているという。舞台に影を落とすメロンとキュウリ。一方でキャベツとマルメロの影はどこにも出ていない。一体どのように描いたのか?絵の中を再現する。
フアン・サンチェス・コターンのマルメロ、キャベツ、メロンとキュウリの絵の構図を再現する。モチーフを用意し、絵の影の打ち方と同じになるように照明を調整し、右端のきゅうりからおいていく。メロンは奥を立ち上げるように置く。カットした方には影がかさなるように。キャベツを吊るすのにも一苦労でコターンは舞台を傾けて配置したのか、マルメロを吊るしてみると絵の通りにはいかない。マルメロとキャベツは、手前よりも枠の中に吊るすほうが絵に近い見え方になった。しかし影や角度の完全再現はできなかった。コターンは同じ時期に描いた作品があるが、今日の作品と同じモチーフが。ほとんど同じ形、配置、モチーフ。全てを一度に並べたのではなく一つ一つ別々に描いて組み合わせた可能性があるという。
フアン・サンチェス・コターンはスペインのトレドで誕生した。43歳で俗世を離れ、静かな修道生活に身を投じた。常に人にやさしく、質素で物欲のない慎み深い人物だったという。主に描いていたのは宗教画。今日の作品の時期に描かれた作品では宗教画を保守的に描いていた事がうかがえる。しかし静物画に限っては独創的に描いていた。コターンが活躍した16世紀末のヨーロッパはスペイン、フランドルなどで静物画が独立したジャンルとして生まれだした頃。その頃、イタリアのを中心にカトリック圏で大きな潮流となりつつあったのはバロック。ドラマ、エモーションを描き、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオが描いたゴリアテの首を持つダヴィデは羊飼いの若者のダビデが巨人のゴリアテを倒したという旧約聖書の1番目。カラヴァッジョは光と影を巧みにあやつり、人々の感情に強く訴えかけ劇的な宗教画を生み出した。この革新的な絵画表現は後の画家たちに大きな影響を与えた。コターンは人物ではなく、果物や野菜を描く静物画に光と影のドラマを持ち込んだのはこの1枚だったのかもしれない。
現代絵画のトップランナーの諏訪敦さんはコターンのマルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物について、細部を怠ることなく視界がすべてクリアに見えるという。細部にまで緻密に描かれているのがサスペンスの理由ではないかというが、自身の作品では影を陰影をぼかしたりシャープにすることで物のサイズ感を表現できるという。人の目が捉える空間の中に近い現実感のある絵になる。さらにこの技法で描かれた1枚は遠近感を生むぼかしを施さずに、隅々までピントがあっている。すると空間性が犠牲になるという。コターンの絵もこうして影を同じ濃さで描いている。諏訪敦さんはそれが神聖にみえ、あらゆる細部にまえピントを当てた絵には、空間的なリアリティよりも画家の見るという記憶が刻まれているという。描かれたのはコターンが見続けてたどり着いた、そのもののあるがままの姿だった。
ゴッホの描いた情熱的なひまわりは絵画史にのこる静物画。静物画というと、日本では花や器のイメージが強いがしかし英語でスティルライフと静止した命と言われる。その起源は諸説あると言われているがスペインではボデゴンと呼ばれ元々厨房や食材を写実的に描くところから始まった。動かないものを描くからこそ深まった見ることへの探求。そんなボデゴンの先駆けにした静物画の最高傑作と言われるのがコターンのマルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物。
フアン・サンチェス・コターンのマルメロ、キャベツ、メロンとキュウリだがその絵と同じ時期に12枚の静物画を描いていた。現存する6枚と比べると舞台におく食材の数や配置をかえて効果の違いを確かめていたかのよう。背景を広くあけた理由に諏訪敦さんはぎっしり詰め込まれるとディティールを解読するだけで満足してしまう。なにもない空間があることで気持ちの置きどころ、鑑賞者もコターンと同じように瞑想的な気持ちになるという。またその意見が正しいようにコターンの作品の12枚の中に窓というタイトルであったという。野菜や果物がのせられたこの舞台は窓枠という説もある。窓枠の中でコターンが行った壮大な実験ではどんな構図なら惹きつけるか等と画家の探究力の静物画とも思えてくる。
フアン・サンチェス・コターンの絵の構図はスペインの画家に深い影響を与えていく。フランシスコ・デ・ゴヤやサルバドール・ダリに受け継がれる。
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