2023年11月16日放送 0:35 - 1:25 NHK総合

NHKスペシャル
混迷の世紀 第12回 難民“漂流” 人道主義はどこへ

出演者
河野憲治 
(オープニング)
オープニング

オープニング映像。

混迷の世紀 第12回 難民“漂流” 人道主義はどこへ

チュニジア・スファックスではヨーロッパを目指す人々の船がたびたび遭難し、ことしすでに2000人以上の死者や行方不明者が出ている。故郷を追われる人々はことし1億1千万人を超えた。今回は難民保護をめぐって揺らぐ人道主義の行方。世界では紛争や内戦が絶え間なき続き、ウクライナではロシアによる軍事侵攻が始まってから1年間で国民の約3分の1が国内外へと逃れた。欧米諸国はこれまで以上に自国の利益を優先する姿勢に傾き、危機に対応できずにいる。

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オープニングトーク

紛争や迫害によって故郷を追われる人々は20世紀を大きく上回り、この10年間で3倍近くに急増。ことし過去最も多い1億1千万人を超えた。人道主義に基づいて難民を保護してきた先進国では、受け入れを厳しく制限する動きが目立っている。イタリアでは滞在資格の認定を厳しくし、強制送還も可能にする法律が制定された。デンマーク政府はシリアから逃れてきた難民の一部について居住認定を取り消し、シリアに送り返す方針を打ち出した。ドイツでも10月、受け入れに反対する右派政党が地方選挙で得票を伸ばした。そして今、イギリスが難民に対して特に厳しい姿勢に転じている。

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イギリスイタリアシリアデンマークドイツ国際連合難民高等弁務官事務所
迷の世紀 第12回 難民“漂流” 人道主義はどこへ
イギリス ロンドン

イギリスではことし3月、非正規な方法で入国した人々について保護の申請を受け付けないとする新たな法案が議会に提出され激しい議論となった。この1年前に政府はは非正規な方法で入国した人々をルワンダに強制的に移送する政策も発表していた。厳しい政策を推し進める政府に対し、野党は非人道的だと反発。対立が続く中、法案は僅差で可決された。難民の受け入れをめぐっては国民の間でも論争が起きている。ことしウェールズ地方のラネリの4つ星ホテルを国が借り上げ、収容施設にする計画が報じられた。計画に反対する街の住民と外からやってきた人権団体との間では激しい口論が起きた。かつて難民や移民を多く受け入れてきたイギリスでは、今や外国生まれの住民は人口の15%を占める。外国にルーツを持つ首相や閣僚も出てきている。今イギリスで難民受け入れへの抵抗が強まっている背景には、難民申請者が急増していることがある。去年は過去最高の8万人以上に達した。各国政府は保護を求める人について入国方法を問わずに申請を受理し、審査の結果難民と認定されれば在留資格を与える。イギリスでは審査を待つ人の数が急増し国の負担が増す中、難民受け入れのあり方自体が議論を呼んでいる。

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ラネリ(イギリス)ルワンダロンドン(イギリス)内務省難民の地位に関する条約
ウェールズ ラネリ

ラネリのホテル前では住民が連日泊まり込んで抗議活動を行っていた。抗議活動の発起人で30年以上街に住むロイドさんは「差別的、無責任との批判も受けますがどれも当てはまりません」と話した。それでも反対するのはホテルがなくなれば街の基幹産業である観光業が大きな打撃を受けるためだった。収容施設にされるにあたり地元の従業員約100人が失業した。さらにイギリス全体で難民申請者の収容に年間約6800億円の予算が投じられていることにも疑問を感じている。不法移民を使った犯罪の規模は年々拡大しており、治安の悪化も懸念していた。イギリス各地から右派政党の支持者たちがラネリに集まり、ホテルに収容される申請者は難民ではなく不法移民だと主張し排除を呼びかけていた。極右的なネットメディアではヨーロッパが侵略されていると発信され、陰謀論まで拡散していた。住民たちは難民申請者への憎悪を口にするようになっていた。

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ラネリ(イギリス)
反難民的な投稿

ロンドンにある研究機関ISDでは難民をおとしめる偽情報やヘイトスピーチを広めていたSNSのアカウントを調査した。反難民的な投稿に対しコメントや拡散をしたアカウントを特定。やり取りが多かったアカウントを近づけるよう相関図に配置すると、極右的な主張をするグループのすぐそばにあったは与党政治家の支持者を中心とするグループだった。極右系のアカウントと盛んにやり取りしていたことが判明し、反難民の主張が保守層にも広く浸透している可能性が見えてきた。

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ロンドン(イギリス)戦略対話研究所
1人の難民の男性

難民認定を受けウェールズで暮らしてきたクパキオさんは、幼い頃に患ったポリオの後遺症に苦しみながらイギリスで事務員などの仕事をしてきた。結婚し3人の子どもを育て上げた。今も難民の友人たちと支え合いながら暮らしている。リベリア出身のクパキオさんは、12歳の時に内戦が勃発して家族と離れ離れになった。23歳の時に国外に逃れることを決意した。難民認定されるか不安な日々をウェールズの人々が支えてくれ、中でもジェフさんとジェニーさんの夫妻は家族のように接してくれた。教会で出会ったクパキオさんを自宅に招き、見守り続けてくれたという。10月にラネリではホテルを収容施設とする計画は撤回された。

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UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)

難民保護の必要性が国際的に認められるようになったのは100年ほど前。ロシア革命や第一次世界大戦の混乱で故郷を追われた多くの人々が命を落とし、初めて難民への支援が呼びかけられた。1951年に難民条約が誕生した。当初はヨーロッパの共産圏から逃れてくる人々が保護の対象として想定されていたが、その後各地で紛争が相次ぎ難民は増加の一途をたどっていく。増え続ける難民を保護するため先頭に立ってきたのがUNHCRだった。河野キャスターは第11代難民高等弁務官を務めるフィリッポ・グランディ氏を取材した。グランディ氏は「難民の数は増加している」「新たな危機が次々に生じ古い危機も解決されないまま」「問題なのは難民の数の多さではなく政治状況が困難であるということ」などと話した。湾岸戦争のとき、イラク政府による迫害を逃れた180万人以上のクルド人が国境に殺到したが隣国のトルコ政府が入国を拒否したため約40万人が国境を超えられなかった。難民高等弁務官だった緒方貞子氏は、国外に逃れていないことから難民としての保護の対象とされていなかったこうした人々のためにキャンプを設営した。さらにイラク政府による弾圧から守るためアメリカ大統領に直談判し、軍の支援を求めた。緒方氏の特別補佐官を務めていたグランディ氏は「緒方さんの時代には結束があった、私たちが今目にしているのは様々なグループや利害関係、対立による分断です」「命を救うこと、難民を保護すること、正しい解決策を見つけること、こうした役割は政治情勢がどうなろうと変わりません」などと話した。

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ルワンダと合意した移送政策

去年イギリスは難民申請者を強制的にルワンダに移送する政策を打ち出した。2022年以降に非正規の方法で入国した難民申請者の一部を国内には受け入れずルワンダに移送。ルワンダは約222億円の資金援助と引き換えに難民認定を審査し、住まいの提供などをする。イギリスは難民受け入れの負担を減らすだけでなく危険な航海を諦めさせる人道的な政策だと主張している。これに対しUNHCRは、保護を求められた国が自ら難民を受け入れるという難民条約の精神に反するものだと批判している。難民支援団体のジャマルさんは、この政策は当事者の意思を無視するものだと訴えてきた。去年イギリス政府が難民申請者たちを搭乗させようとした機内からは泣き叫ぶ声が聞こえた。離陸直前にヨーロッパ人権裁判所の介入で移送は差し止めになったが、政府は今も移送の正当性を主張し裁判が続いている。ルワンダはかつて内戦で200万人の難民が発生したが、平和を取り戻した今は難民を受け入れる側となった。かつての内戦の影響で医師が不足する中、医療現場ではひときわ手厚く迎えられている。一方難民の扱いをめぐっては懸念も指摘されている。2018年には難民キャンプで起きた処遇改善を求めるデモに警官が発砲、12人が亡くなった。ルワンダ政府の報道官は難民や移民の受け入れを国の成長に役立てたいと語った。ルワンダと合意した移送政策の受け止めについて、イギリスの世論は二分しており、6月に行われた調査で「賛成」と答えた人は全体の4割程度だった。

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難民保護の原則

難民申請者をルワンダに移送するイギリスの政策を一貫して批判してきたグランディ氏は、この政策によってこれまで築き上げられた難民保護の原則が崩れかねないという危機感を抱いていた。世界の難民・避難民の8割近くは近隣の発展途上国にとどまり厳しい環境に置かれている。先進国であるイギリスが難民保護を他国に肩代わりさせるようなことがあれば、世界中が追随してしまうおそれがあるとした。カリフォルニア大学のテンダイ・アチウメ教授は、故郷を追われる人々の境遇を先進国が理解し直すことが重要、先進国が国境を守るために暴力的な政策を続ければ人命や自由を尊重するという民主主義の原則を失ってしまう可能性があると指摘した。難民申請者の中には自ら命を絶つ人も出ている。クパキオさんはウェールズの人たちに想いを伝えたいとイベントを開き「ここに来てあなたたちいは僕を迎え入れてくれた、居場所を手に入れられたと感じた」などと訴えた。かつて難民保護への理解を世界広げた緒方貞子氏は、難民を守っていくことが世界の平和につながると、内向きな思考に陥らないよう警鐘を鳴らし続けた。

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(エンディング)
エンディング

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